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2013/04/12

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第3回 アジアビジネスに韓国企業情報生かす                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

◆豊富な新興国市場の情報吸収せよ◆

 日本の企業やビジネスパーソンがアジアや新興国市場で稼ぎ切るには、アジアの教養が必要である。しかし日本の教育課程では、アジアの政治・経済・文化に関する知識情報や地歴観などについて学ぶ機会が少ない。

 大学や学会でアジアの教育研究は行われていることは行われているが、学生にとって魅力的な科目になっているのか、論文が日本人のアジア理解やアジア人の日本理解に貢献しているのか検証が求められる。もし学生にとって何を言っているのか意味不明であったり、論文が日本人のアジア理解に繋がらなければ、かえってアジアが嫌いになったり、アジアビジネスに不利になってしまう恐れがある。

 したがって今後、日本の教育課程や企業研修などでアジアが好きになり、お互い仲良くなれる学習機会を増やし、真の意味でのアジアビジネス・リーダーの育成が急がれる。

 アジアの地理概念は、ユーラシア大陸のヨーロッパ以外の地域であり、ユーラシア大陸の面積の約80%(4457万平方㌔㍍)をアジアが占め、人口は世界人口の約60%(40億人)がアジアに住んでいる。

 アジアの国数は、広義では48カ国で東アジア(6カ国)、東南アジア(11カ国)、南アジア(7カ国)、北アジア(1カ国)、中央アジア(5カ国)、西アジア(18カ国)に地域分類される。

 狭義では、24カ国(東・東南・南アジア)である。

 アジアの中核をなすのは、日本・中国・韓国の3カ国であることから、この地域の呼称を東アジア、または北東アジアという。

 アジアを学ぶといっても広義で48カ国もあれば、どの国から学べば良いのか迷うところだ。また、企業やビジネスパーソンによってそれぞれ得意・不得意があり、一概には言えない側面もある。

 例えばタイなど東南アジアで強みを持っている企業もあれば、中国に力を入れているビジネスパーソンもいるだろう。

 ただ、その国をよく知っているからといっても現地で支持を得ていなければ、ビジネスは上手くいかない。決してあってはならないことは、東南アジアや中国などアジアを軽蔑していたり、嫌いなのにビジネスをやりたがることだ。また、逆にアジアビジネスの時代だといって、急にへりくだってアジア企業をおだてたり、媚を売ることだ。これは、かえって相手側が気持ち悪がるし、警戒感を強めるだけだ。

 それではどうすれば良いのかというと、やはりアジアをフラットに見る、アジア企業と自然な形で付き合うことである。これは、アジア企業に対しても同様のことが言える。なぜならばアジアのビジネスパーソンも欧米志向が強く、アジアを軽視するきらいがあるからだ。

 最早、アジアは、急速な経済発展を遂げ、自信に満ち溢れており、世界経済におけるプレゼンスがこれまでになく高まっている。したがって現在のアジアを理解するには、これまで以上に深い理解が求められており、特に相手側からの信頼が不可欠となる。

 日本は、新たな経済発展段階を迎えた東南アジアや中国に対するより深い理解が求められる一方、隣国である韓国への理解も急がれるのではなかろうか。隣国と上手く付き合えてこそ、国際社会から信頼されるというものだ。

 日本と韓国・朝鮮半島は、過去2000年間の政治・経済・文化的に友好的な交流があり、現在においては自由民主主義の価値観も共有している。また、ここ150年間の近現代史において決して良好とは言えない日韓関係であったが、最近は韓流文化をはじめ経済的にも連携が進んでいる。

 貿易面では、日本にとって韓国は第3位の貿易相手国であり、韓国にとって日本は第2位の貿易相手国となった。

 投資面では、2012年日本企業の対韓国直接投資は、前年比98%増の45億㌦(4320億円)と過去最高となった。皮肉にもこの年は、日韓関係が竹島問題で戦後最悪の状況に陥ったにも関わらずである。東レ(炭素繊維)、旭化成(樹脂原料)、住友化学(スマホ用タッチパネル)、日本電気硝子(液晶ディスプレー用ガラス基板)などが、相次いで韓国に世界最大級の工場を建設している。日本企業が韓国進出を本格化し始めた理由は、韓国市場開拓、電気料金と物流費の安さ、法人税率の低さに加えて、韓米などのFTAを活用した輸出拠点化にある。

 したがってアジアを学ぶには、韓国を理解するというのも一つの方法である。そして韓国理解においては、韓国企業から始めてみてはどうだろう。韓国企業の情報の中には、日本からはブラインドとなっているアジア・新興国市場の情報が豊富であり、アジア・新興国ビジネスモデルも参考になる。また、韓国企業といかに付き合うかの判断材料としても使える。

 例えば韓国企業と取引(供給・調達)するか、韓国企業をライバルにするか・パートナーにするか・無視するか、韓国市場に進出(生産・販売拠点)するか、韓国人観光客をいかに誘致するか、自社を韓国企業に売却するかなどの判断である。さらに、韓国企業を鏡にして、日本企業の等身大の姿を映し出すことができれば、「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」となるであろう。


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