ここから本文です

2013/04/26

<オピニオン>韓国経済講座 第151回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第151回

◆40年前の予言◆

 韓国が成長の限界に達した。このほど米国の経営コンサルタント、マッキンゼー・アンド・カンパニーの研究陣が、米国外交専門誌として有名な「フォーリンポリシー」に寄稿した論文が韓国の政・財・学会に大きな波紋を呼んでいる。国会議員たちも秘書に論文を取り寄せさせて読むほどだと言う。

 概要は本紙でも紹介されているので繰り返しを避けるが、このままでは成長の限界に達すると言うショッキングな主張に納得する意見も多い。だからこそこれを参考に「新たな成長動力」を作り上げると言う。ある意味もたつく新政権への「喝」かもしれない。

 ところで、「成長の限界」とは、40年前の1972年に世界の企業家や学者で構成されたローマ・クラブ(1968年発足)が、MIT工科大学のドネラ・H・メドウズ、デニス・L・メドウズ、ヨルゲン・ランダースの若手研究者グループに委託し、1年がかりで研究した成果である。

 その結論は、「このまま経済成長を続けたら、人口、食料、資源、汚染などの面で人類社会は、遅くとも21世紀の中ごろまでにはいろいろな意味での破局的な状態が出てくる可能性がある」と言う悲観的なものであった。

 もちろんこれにはさまざまな反論が出された。人口と生産が幾何級数的に増えるだけでなく技術進歩も同様ではないか。分析手法がエコノメトリックスではなくシステム・ダイナミックスと言うやり方に問題があると言う経済学的批判、地球全体をシステムとして扱っていることに対する疑問などなどである。

 以来40年、我々は「成長の限界」の経路を歩んできたのであろうか。スミソニアンマガジン電子版(12年4月号)は「Looking Back on the Limits to Growth」(ローマ・クラブ成長の限界(72年)、40年後の検証、Mark Strauss著)において、オーストラリアの物理学者グラハム・ターナー(Graham Turner)が「成長の限界」の旧態依然のシナリオ(business-as-usual scenario)で70年から2000年までの現実世界のデータを比較して、現実は「成長の限界」の予言にほぼ沿って進んでいることを見出したと紹介している(図参照)。

 「成長の限界」における予測は、残っている非再生資源量を除き、各指標とも20年から30年前後をピークにそのトレンドは低下しており、人口は30年を機に減少するとしている。

 しかし、国連長期推計によれば50年に91億人に達し、特に開発途上国地域での上昇で増加する予測が出されている。

 先のマッキンゼーレポートは、韓国経済が抱える困難をこのまま放置すると40年前のローマクラブの「成長の限界」に匹敵するようなことになりかねないと警鐘を鳴らしたものと言える。

 こうした指摘に抗するように新設の未来創造科学部は業務報告「新産業で創造経済実現」において、科学技術と情報通信技術(ICT)を世界最高水準に育成するとともに新産業を創出し、これを各産業に融合・拡散させ「創造経済」と「国民幸福」を実現するとした今年の業務計画を朴槿惠大統領に報告した。

 以下報道によるとその内容は▼創造経済の生態系醸成▼国家研究開発(R&D)および革新力量強化▼ソフトウエア(SW)・コンテンツ中核産業化▼国際協力とグローバル化▼国民に向けた科学技術とICT実現――を「5大戦略」として提示した。

 また17年まで「10大新産業の創造プロジェクト」を進め、融合新産業を創出する一方、科学技術を活用し、社会懸案を解決する政府レベルのプロジェクトを推進する、としている。

 成長の限界を未来創造経済がどう克服するのか、すなわち中産層の家計債務の負担、雇用なき成長、少子・高齢化など経済社会生活の基本項目の危機を科学技術とIT新技術の産業拡散で乗り越えられるかが問われている。


バックナンバー

<オピニオン>