◆雇用生む中小企業支援が不可欠◆
先日、日本政府の成長戦略素案が各紙に報道された。その中で目をひいたのは、日本の貿易額に占める自由貿易協定(FTA)締結国の比率を現在の19%から2018年に70%まで引き上げるといった国際展開戦略だった。この戦略では、FTA、環太平洋経済連携協定(TPP)などを通じて東アジア、米国、欧州連合との経済連携を積極的に推進し、日本企業の海外における収益拡大を目指すという。
近年、世界各国では経済連携への取り組みが活発化してきている。世界貿易機関(WTO)の統計によると、昨年6月まで発効されたFTAの件数は221を記録し2000年の77より約3倍増加した。このような貿易自由化の流れの中、自動車や電機、鉄鋼など主要業種で日本と激しく競争する韓国の場合、全体の貿易額でFTAを締結した国・地域との貿易が占める割合は約34%に達し日本を大きく上回っている。今年の3月は、主要貿易相手国である米国とのFTAが発効してから1周年を迎え、その成果に注目が集まった。ここでは、韓米FTAが施行された1年間を振り返り、韓国の輸出入における成果と今後の課題点、また、これから貿易自由化に本格的に踏み出す日本への示唆を考えてみたい。
韓米FTAは、韓国で協定を結ぶ前からアメリカの安い農産品の輸入増加による自国農家への影響が不安視され、当時強い反発があった。しかし、FTAが発効され約1年が経った今、蓋を開けてみると対米輸出額は増加、農産品の輸入は減少しており、当初懸念されていた農家への影響は限定的であった。結果を具体的に見てみると、一年間における韓国の輸出総額は前年比2・3%減少したが、その中で対米輸出は前年比1・4%増加した。品目別では、自動車部品(11・3%増)、石油製品(18・8%増)、ゴム製品(5・1%増)などに関税撤廃や引き下げによるFTA効果が表れた。米国からの輸入では、関税が半減した乗用車が4・1%増加、注目の農産品は16・8%の減少となった。
世界的な景気減速や内需低迷などにより韓国輸出が鈍化を見せる中、このような結果は韓米FTAが対米輸出の増加に寄与したものとして評価すべきであろう。だが、この1年間の結果だけで、FTAの経済的効果を把握し良し悪しを判断するのは難しいと考える。それは数値だけでなく、社会全体の視点からFTAがどのように経済的効果をもたらしているかを見る必要があるためだ。
FTAは貿易自由化の実現を目的としているため、認知度が高く競争力のある強い企業はより強くなり、弱い企業はより弱くなるといった市場原理が働きやすい。実際、韓米FTAがもたらした経済的効果は、大企業に集中しているのが現状である。韓国の中小企業中央会が中小輸出企業300社を対象に行った調査によると、中小輸出企業の68%が「韓米FTAの発効後、輸出が減少、または、変化なし」と答えた。その主な要因として、「バイヤー発掘の難しさ(29・9%)」、「原産地証明の難しさ(24・0%)」などが挙げられ、海外で認知度が低く原産地証明に必要な専門人材やシステムを整えてない中小企業ならではの課題点が示された。今後は、中小企業によるFTAの活用率を高め、大企業に集中している経済効果を中小企業にさらに拡大していかなければならない。韓国政府は、中小企業のFTA活用において一つの障壁となっている「原産地証明」を円滑に進めるために、証明書作成システムの普及と専門人材の育成に積極的に取り組む方針である。FTAの経済的効果を社会全体に波及させるためにも、大企業よりも雇用を生み出す力が大きい中小企業への多角的支援は必要不可欠だ。より多くの企業、人々が恩恵を受けられる経済連携を創っていく作業は今始まったばかりである。