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2013/06/14

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第5回 アジア新興国で稼げるグローバル人材が不足                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

◆シナジー効果で大きな一歩踏み出せ◆

 なぜ日本企業は、世界最高の技術やものづくり文化を持っていながら稼げないのか、また韓国企業に負けてしまうのであろうか。その理由は前回、1.韓国企業などアジア企業の躍進を過小評価した、2.過去の成功体験に安住して怠慢があった、3.日本がアジア新興国市場の台頭など世界潮流を見極められなかった、4.日本の技術神話を妄信して殿様商売に甘んじていた、5.内需依存から抜け出せなかったなど5つを挙げた。最後にもう一つの理由を考える。

 6つ目は、日本にはアジア新興国市場で稼げるグローバル人材の不足である。これまでの日本企業では、欧米での海外勤務者が花形出世コースであって、アジア新興国での勤務者は出世コースから離れた存在のような空気感があった。また、社員もアジア新興国への派遣を嫌がり、派遣されたとしても期間が3年間程度と短いため本腰を入れて仕事をする気分になれない。さらには、これといった仕事がなく、暇をもてあそぶ傾向にあった。このような中途半端なアジア新興国戦略の中で現地に派遣された社員の多くは、屈折した気持ちにならざるを得なかったのではなかろうか。一部の社員は、現地スタッフを教育するという名目のもとで、必要以上に日本語の指導をしたがる。日本語の指導もエスカレートすれば、ただの粗さがしになる。果たして仕事をしているのか、自らのコンプレックスとストレスを解消しているのか疑いたくなる。日本語の能力は、現地スタッフに到底、抜かされることがないので、安心して指導できるし、心地よい優越感も感じられる。これは、日本語を指導すべきでないということでなく、日本語を教えるには、まず教える側が日本語に精通していなければならない。日本人だからといって誰しもが高い日本語の能力を持ち合わせているとは限らない。この暇つぶしのような無責任な日本語の粗さがしによって、どれほどの多くの優秀な現地スタッフが退職し、外国人社員が泣く泣く帰国したことだろうか。胸が、しめつけられる思いである。これは、日本にとっても相手国にとっても大きな損失である。これでは、日本企業の日本人社員も外国人社員もグローバル人材として育たないし、グローバル人材が不足するのは当然である。

 グローバル人材不足のもう一つの原因は、現地スタッフや外国人社員のキャリアパス、すなわち出世や報酬アップの道筋が明確に示されていないことだ。日本企業の多くは、グローバル人材の採用・育成・登用の制度が充分に整備されていない。一方、最近では、海外店の支社長を派遣する際に、「現地スタッフを現地法人の社長に育てるまで帰って来るな」などのミッションを出す企業もある。しかし残念ながらあれほどの大企業で、これほどのスマートな幹部社員でもこのミッションがなかなか実現されない。その理由は、何であろうか。海外店の支社長曰く、現地スタッフに様々な仕事を体験させて、大きな期待をかけているものの、まだまだ能力不足だという。本当に現地スタッフの能力不足なのか。ある現地スタッフは、採用時にTOEICが990点満点中900点であった。しかし某大手企業の幹部は、このような優秀過ぎる現地スタッフに対して大変、困ったような表情をした。なぜなら日本の本社で採用する社員よりも優秀だからだ。このような国際的に見ても高い語学力や現地のトップクラスの高学歴をもった現地スタッフであるのにも関わらず、何の能力が足らないのであろうか。また、某支社長は、「あと10年だけ時間をくれれば必ず現地法人の社長に育て上げる」という。しかし某支社長が3~4年後に交代し、新しい支社長に会うと、また「あと10年待ってくれ」という。これでは、現地スタッフを現地法人の社長に育てるミッションは到底、果たせない。このミッションを果たせないということは、支社長は全く仕事をしなかった。また、現地スタッフの能力不足ではなく、日本人支社長の能力不足ということになる。すなわち支社長は、自らがグローバル人材としての能力と器を兼ね備えていないのみならず、グローバル人材像も持ち合わせていないということだ。これでは、日本企業では外国人社員であれ、日本人社員であれ、グローバル人材が育つわけがない。グローバル人材が育たなければ、相変わらず日本企業は、アジア新興国市場で稼げないし、日本経済の足を引っ張ることとなる。

 ただ最近、日本政府は、教育政策や大学教育においてグローバル人材の育成に注力している。また、日本企業は、日本人や留学生に関係なく、グローバル人材を積極的に採用している。当面は、日本人のグローバル人材が不足しているので、外国人留学生を採用しており、多い企業では募集定員の2~3割に上る。採用の次は、外国人社員や現地スタッフをいかに育成し、幹部に登用するかが課題である。育成とは、その独創的な発想、潜在的能力、奇抜なアイデア、多様な価値観を生かすことである。このような外国人社員や現地スタッフの能力や価値観を生かすことができれば、日本人社員も自ずとグローバル人材としての能力が育まれ、感性も磨かれる。そして外国人社員・現地スタッフと日本人社員の双方が触発されながらシナジーを発揮することができるならば、日本企業はグローバル企業として大きな一歩を踏み出せるだろう。


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