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2013/07/12

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第6回 モノ作りの限界を超える経営                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

◆「新中間所得層」のニーズ掘り起こしを◆

 韓国企業と日本企業の強みを比較する。その目的の一つは、日韓企業のそれぞれの強みを知ることであり、それらを活かすことだ。もう一つは、韓国企業を鏡にして、日本企業の等身大の姿や身の丈を映し出し、日本企業の経営課題を考察することである。

 日本は、米国一極支配の時代には米国を鏡にして、自らの姿を映し出し、日米同盟を基軸に立ち位置や方向性を考えた。しかし、無極化の時代であり、アジア・新興国市場が中心となった世界経済の時代には、アジアを鏡にして、自らを冷静に見つめ、主体的に戦略的立ち位置や進むべき方向性を探るべきではなかろうか。

 日韓企業の強みは、経営スタイル、技術開発、海外戦略、投資戦略、リーダーシップ、人事戦略の6つの側面から分析する。1つ目の経営スタイルは、韓国企業が市場を重視する「マーケティング指向経営」であるのに対して、日本企業は技術を重視する「モノ作り指向経営」と言える。この違いを2010年バンクーバー五輪フィギュアスケート競技での韓国の金妍兒選手と日本の浅田真央選手の事例をもって説明する。

 金妍兒選手は、実はあまり器用でないので、トリプルアクセルが飛べない。よって早い段階からトリプルアクセル、すなわちモノ作りを諦めた。

 そしてカナダに移住し、いわゆる現地化し、そこでオリンピック審査委員の好みや審査癖を徹底してリサーチし、それに合わせて演目を練り、演技を磨いた。すなわち見せ方、売り方、マーケティングにこだわったのである。

 一方、浅田真央選手は、最後の最後までトリプルアクセルにこだわった。すなわち芸術性、モノ作りを追求したのである。

 金妍兒選手と浅田真央選手は、良きライバルであり、良きパートナーであったからこそ、世界のフィギュアスケートの演技力と技術力の向上に大きな貢献を果たすとともに、世界の人々に勝敗や国境を超えた大きな感動と興奮を与えた。

 また、日韓の競い合いと切磋琢磨する姿は、アジアのポテンシャルを改めて世界に強く印象付けたことであろう。

 バンクーバー五輪では、金妍兒選手が勝利したが、だからと言って「マーケティング志向経営」が、「モノ作り志向経営」より優れているということを言いたい訳でない。

 韓国企業は、モノ作りを真似たくても真似られないどころか、憧れるほどだ。ここから示唆されることは、日本企業がこれまでの単なる「モノ作り志向経営」だけでは、経営が成り立たなくなったことだ。そこで、モノ作りに対する考え方を変える必要がある。

 一つは、モノ作りは大事であるが、過信や依存しないようにすることだ。モノ作りに胡坐をかき、頼っている企業やビジネスパーソンは、欲しければ売ってやるというような横柄な傾向がある。この横柄さは、自分自身の営業スマイルからはバレないと思っているかもしれないが、お客からは透けて見える。特に先進国の営業マンや店員ほど、アジア・新興国市場では、バレないと思っているきらいがある。

 結果は、その逆でアジア・新興国市場の消費者ほど、そのような横柄さに対して敏感だ。これに気づかないということは、それほどアジア・新興国市場を分かっていないという証である。

 繰り返すが、先進国市場を理解しているということは、即、アジア・新興国市場を理解していることにならない。また、アジア・新興国市場で長年働いたからといって、現地消費者の心を簡単に掴めるものではない。

 もう一つは、アジア・新興国市場の消費者ニーズを充足させるためにモノ作りの強みを発揮させることだ。アジア・新興国における経済成長による所得の向上に伴い、従来の低所得層(BOP層)から中間層へと移行する「新中間所得層」は、これまでにない新たなニーズを生んでいる。BOPとは、「Base of the Pyramid」または「Bottom of the Pyramid」の略で、所得別人口構成のピラミッドの底辺層(年間所得3000㌦未満の所得者層)を指し、約40億人がここに該当する。

 「新中間所得層」とは、世帯の年間所得5000㌦から3万5000㌦までの所得層である。この「新中間所得層」の新たなニーズは、当然、過去になかったものであるため先進国企業であろうと、新興国企業であろうと、知り得るものでない。

 また、「新中間所得層」の消費者自身も自らのニーズを分かっているようで分かっていない。したがってこの新たなニーズは、先進国および新興国企業と「新中間所得層」の消費者がともに、切磋琢磨して掘り起こして行くものと考える。

 この新たなニーズを充足させるための技術革新や製品開発にこそ、モノ作りを活かすことができれば、日本は技術立国として復活できるのではなかろうか。

 これは、単なるアジア・新興国市場を開拓するという次元のものでなく、新たなグローバル市場を創造し、世界経済を牽引することになるであろう。


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