◆新興国で強い韓国企業の経営スタイル◆
韓国企業と日本企業の強みを経営スタイル、海外戦略、技術開発、投資戦略、リーダーシップ、人事戦略の6つの側面から比較分析する。前回までの経営スタイルと海外戦略に次いで、3つ目は技術開発である。
韓国企業は、技術を買ってきて管理するものと考える「技術マネジメント(購入技術と自社開発技術の組み合わせ)」が多い。「技術マネジメント」のメリットは、技術をどんどん買ってくるので、古い技術を簡単に捨てられることだ。逆に言えば新しい技術を素早く取り入れやすいとも言える。ただデメリットは、技術使用料であるロイヤルティーがかさみ、コスト負担が大きいことだ。
これに対して日本企業は、技術の改善を積み重ねて開発するものと考える「技術イノベーション(技術改善とすり合わせ)」が主流だ。日本の技術は、世界一と言っても過言でない。しかし技術者や研究者が、自己開発した技術や研究成果にこだわり過ぎたり、執着する傾向が強いので、新しいニーズや変化への対応がどうしても遅くなる。すなわち製品よりも技術の論理が優先されているということだ。したがって日韓の違いは、一言で言えば韓国企業は製品開発が、日本企業は技術開発が重視されるということになる。果たして消費者は、製品と技術のどちらを選ぶだろうか。先進国市場は、技術かもしれないが、新興国市場は製品ではなかろうか。
4つ目は、投資戦略である。韓国企業が「韓国内で稼いだ利益を海外につぎ込む投資パターン」に対して、日本企業はその逆で「海外で稼いだ利益を日本国内に再投資するパターン」である。この背景には、それぞれのお国事情がある。
韓国は、人口が5000万人と日本の約4割。国内市場が大きくもなく小さくもない中途半端な規模なので、海外市場に頼らざるを得ない。そのため海外への投資資金は、国内の販売製品を海外の販売製品よりも高い価格で売ることによって、国内で稼いでいるのである。これは、韓国内で企業の整理統合が進み、プレーヤー数が少ないために可能たらしめているとも言える。
例えば現代自動車は、エアバック(1台当たり4~6個)を海外では標準装備にしているが、韓国内では高価なオプションにしている。一方、日本は、同業他社の乱立など国内競争が激しく、財務体力が消耗しているため、国内での投資資金を海外で稼がざるを得ないという厳しさがある。
5つ目は、リーダーシップである。韓国企業が「オーナー経営者のトップダウンによるスピード経営とリスク・テーキング」に対して、日本企業は「サラリーマン経営者の優れたバランス感覚とリスク回避力」と言える。
韓国企業は、10大財閥のうち8財閥がオーナーであり、オーナー経営が多い。オーナー経営者は、非民主的・独裁的な経営だと批判されるという短所があるが、トップダウンにより意思決定や経営行動がスピーディーであるという長所もある。何よりもオーナー経営者の一番の強みは、リスク・テーキングではなかろうか。リスクの中にしか利益がないことを誰よりも自覚し、常にリスクを探し回り、このリスク・テーキングこそが一番の仕事になっているように伺える。このようなチャレンジングな経営や勇気ある姿勢は、世界の企業や経営者たちから魅力的に映るであろうし、共感を持たれるであろう。ただ、リスクを冒すということは、どの企業よりも失敗が多いことには間違いない。
一方、日本企業のサラリーマン経営者は、経営専門能力が高く、現場経験が豊富である。また、ボトムアップや高い管理力・調整力によって民主的経営を行っており、経営のバランスという高い価値を創造している。ただ、リスクを避け過ぎて、利益を後回しにするきらいがある。
6つ目は、人事戦略である。韓国企業は「過酷な徴兵経験や熾烈な学歴・就職競争を経て入社した社員に対するエリート教育」、「徹底した成果主義(成果には高額報酬、失敗時には解雇)により業績達成に対する責任感が強い」、「50代前半で実質的に定年となるため人件費削減によるコスト競争力が高い」。これに対して日本企業は「熟練人材を育成するため組織能力が高い」、「経営責任が部署など組織的に追求されるためチームワーク力が強い」、「定年が引き上げ傾向にあるため愛社精神が強い」と言える。
以上のように韓国企業と日本企業の強みは、どちらも優れており、決して優劣や勝敗がつけられるものでない。また、市場の特性、時代のニーズ、タイミングによって一時的に優劣や勝敗に表れるのはやむを得ないことだ。
ただ、現時点のアジア・新興国市場では、韓国企業の経営スタイル「マーケティング志向経営」をはじめとする強みや戦略が、その業績から見て経営効果が高いと言わざるを得ない。