◆韓国はまあまあ、中国は大変◆
中国の格差は極めて深刻な事態だ。経済が発展すれば、成長・分配・格差の問題はいつもついて回る。1970年代において韓国経済が経済成長をスタートした時も農工間格差が開き問題になった。それでも農工間の人口移動が活発になり成長の果実は少しずつではあるが農村にも浸透していった。こうした現象は、開発経済学と言う専門分野では浸透効果として知られている。米国のアルバート・O・ハーシュマンがその著『経済発展の戦略』において、一国の成長において高所得地域から低所得地域に対して生じる有利な効果を浸透効果、不利な効果を分裂効果と呼び、この二つの効果を用いて国内地域間格差の変動を説明している。浸透効果は、高所得地域の経済成長がいずれは低所得地域にも波及し、国内地域間格差が縮小すると指摘している。少し専門的になったが、ハーシュマンは成長・分配・格差の問題を考える一つの理論的根拠を与えている。
これを踏まえて日韓中の格差の状況を見ようと言うのが今回のテーマである。東アジア3カ国に共通するのは工業部門、輸出部門が高所得地域(先導部門)になったと言うことである。日本では傾斜生産方式による資源集中で鉄鋼、石炭などの基幹産業に資材・資金を重点的に投入し、やがて産業全体の拡大を図るというもので、重工業の復活機会となった。その結果、戦後は鉄鋼及び造船(船舶)が輸出上位を占めてきた。
韓国では60年代の繊維輸出、70年代の重化学工業化が発展のテイクオフの契機を作り、その後、家電製品や船舶、自動車、機械などの重工業製品に生産・輸出ともに移行した。
中国は、広く知られるように78年の改革開放政策実施以降、東部沿岸地域の工業部門が先導地域となってきた。当初は外資企業の工業製品輸出が主導部門であったが現在では民族資本も成長しその役割を果たしている。このきっかけとなったのは、まずはある一部の地域の成長を促進し、その成長によって他地域の成長を引き上げるという鄧小平の先富論であり、この考え方は先のハーシュマンの浸透効果を期待していた。
こうした成長部門・地域とは裏腹に成長から遅れていく部門も存在し、やがてこの格差解消が問題となった。所得面で格差を測る代表的指標としてジニ係数が有名である。ジニ係数とは、0から1までの値をとり、所得分布が平等であれば0に近づき、不平等であれば1に近づく係数である。一般に、各段階の目安は、0・2~0・3は社会の中で一般的に見られる通常の所得配分とされ、0・3~0・4になると格差がありつつも競争による向上には好ましい状態とされる。0・4~0・5では格差が厳しい状況となり、所得格差から不満が高まり社会騒乱多発の警戒ラインとされ、0・5を越えれば特段の事情がない限りは是正が急務とされ、0・6を越えると社会不安につながる危険ラインと見られている。
日本では厚生労働省が3年ごとに公表している所得再分配調査のなかでジニ係数を計算している。3カ国のジニ係数の推移を表に掲げてある。両極化が叫ばれる韓国のジニ係数は競争に好ましい状態を維持し、格差対策を叫ぶ状況にはない。日本も2000年代前半期に比べると格差が縮小し始めている。中国のジニ係数は深刻だ。格差が厳しい状況が続いており、経済格差が社会混乱要因に直結する危機水準にある。中国の係数は2013年1月18日、中国国家統計局が約10年ぶりに発表したものである。しかし、12年末には西南財経大学家庭金融研究中心が10年のジニ係数を0・61と発表し、北京師範大学管理学院・政府管理研究は「12中国省級地方政府効率研究報告」の中で、12年のジニ係数を0・5以上と発表している。ジニ係数のこうした違いは、統計を行う際のサンプリング方法の違いによるものとされるが、それ以外の不労所得の扱い方の問題という指摘がある。また、所得水準は都市部と地方で3倍の開きがあり、好調な業種と不振な業種とでも4倍の差があるとも言われている。
ところで、東アジア3カ国の成長・分配・格差に関する現象は、一見同様の現象として見えるが、少し違うように思われる。成長地域・部門には、未開発段階、低開発段階、中開発段階、高開発段階に分かれ、発展初期には未開発と低開発の格差が拡大するが、成長につれて、低開発と中開発、中開発と高開発、さらには各段階内部の格差となって現れる。韓国のジニ係数は深刻な格差問題としては映らないが、実は韓国の格差は中開発と高開発及び段階内部での格差としてみると競争に好ましい状況での両極化としてみる必要がある。中国は先の開発段階間の格差がすべて内包されているところに深刻で重大な課題があると見なければならない。日韓中は浸透効果の実現へ本腰で取り組まなければならない。