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2013/10/25

<オピニオン>韓国経済講座 第157回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第157回①
  • 韓国経済講座 第157回②

◆チャイナリスクを超えて◆

 韓国企業の中国進出が落ち着いてきた。リーマンショック以降30億ドル台の進出が続いている。2007年の投資金額53億ドルに見られたような、かつての中国ブームに乗った韓国企業の大量進出が中国市場で定着してきたと考えられる。

 また、中国の経済発展に伴って進出動機にも変化が出ていることも事実である。

 韓国企業の直接投資状況を公表している韓国輸出入銀行の統計によると、1988年の最初の企業の投資動機は資源開発(1件)、輸出促進(2件)、低賃金活用(4件)であった。

 国交締結後の93年には企業進出が急増したが、その投資動機は輸出促進と低賃金活用がほとんどであった。進出企業の94%が製造業で、国内賃金の上昇によるコスト回避と三低景気の輸出促進を中国市場に求めたものであった。その後対中投資の進出動機はこの2項目が主な理由となってきた。

 しかし2000年代に入ると中国の所得上昇から日本企業や先進国企業の販売戦略競争が激烈化し、韓国企業の進出動機も変化してきた。最も多くの韓国企業が進出している江蘇省と山東省への申告件数ベースでみた進出動機を表にまとめた。進出地域によって差はあるものの、現地市場への参入を投資動機とするものは江蘇省進出製造企業が107件と半数を占め、山東省は129件と31%を占めている。山東省は韓国と距離も近く輸送コストも安価なことから伝統的に中小企業の進出が多く、輸出促進を目的とした進出が多かった。

 また、中国朝鮮族も多く現地労働者雇用においても低賃金目的の進出も多く行われてきた。電子部品、コンピューター製造、ビデオ・オーディオ製造、通信機器製造業、金属加工製品の製造など組み立て型の労働集約企業が多く、その部品・素材は韓国から輸出されている。

 江蘇省は2000年代に急速に韓国企業が増えた地域で、輸出促進や低賃金利用もあるものの、むしろ現地市場参入型の企業が多い。進出件数の多い業種は、電子部品、コンピューター、ビデオ、オーディオ、通信機器製造業、車やトレーラーの製造業で、部品製造企業は現地で関連組立メーカに販売したり、完成品は現地市場への販売が多い。

 変化するのは進出動機だけではない。特に中国の所得上昇により進出コストも高まっている。いわゆるチャイナリスクの高まりである。

 2000年代に入り中国では、社会的リスクとしてSARSの流行(02年)、鳥インフルエンザ流行(04年~05年)、PM2・5光化学スモッグ(10年~)などが立て続けに起こり企業の事業活動や社員の生活面に影響を及ぼしている。また、電力不足(02年~06年)も深刻であったが近年は電力供給も安定してきた。

 経済的リスクは深刻さを増している。賃金等コスト上昇は全国的現象で、その背景には所得上昇に加え最低賃金引き上げ、所得倍増計画など政府の政策も後押ししている。さらに、08年の労働契約法の実施以降労働者の権利意識が上昇し、雇用条件の改善要求や賃上げ闘争が表面化している。

 また同年の外資優遇制度廃止措置は市場競争激化をもたらし、韓国企業の市場戦略にも強く影響を与え、進出大企業を除き、多くの中小企業が困難に晒されている。

 ところで、韓国企業の現地市場への参入動機が多いのは、こうしたチャイナリスクを逆利用する現象とも見ることができよう。所得の上昇は市場の拡大と多様化であり、ビジネスチャンスの宝庫とみることもできよう。事実2億人とも言われる高所得市場に先進国企業の高級製品販売競争も行われており、韓国企業も負けていない。高所得市場は今後とも拡大することが期待されており、韓国企業の現地市場参入志向も高まるであろう。その場合、これまで進出計画で重視されてこなかったマーケティングリサーチや事前調査(F/S)などの市場理解が欠かせない。


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