◆ニーズ掘り起こし即座に反映を◆
韓国企業の特徴的な経営スタイルであり、強みは、「マーケティング志向経営」である。この最も端的な手法は、韓流マーケティングである。韓流マーケティングとは、まずは映画・ドラマ・音楽・オンラインゲームなどのソフトを売って韓流ファンを作り、その後携帯電話や家電などのハードを売るというもの。サムスン経済研究所は、これを4段階に分けて説明している。第1段階は、音楽やドラマに触れてスターを好きになる。第2段階は、DVDやグッズなどを購入する。第3段階は、家電や生活用品など韓国製品を選び始める。第4段階は、韓国そのもののファンになるという。世界の韓流ファン数は、韓国文化体育観光部・海外文化広報院によると、17カ国の韓流ファンクラブ数182団体、会員数330万人(日本除く)と推算されている。地域別には、アジアが中国・ベトナム・インドネシアなどに231万人(84団体)と最も多い。米州は米国・アルゼンチンなどに50万人(25団体)、欧州・中東はロシア・英国・フランス・トルコなどに46万人(70団体)である。
韓流マーケティングは、特にアジアや中南米など新興国市場で高い効果を発揮している。アジア市場では、台湾・ベトナム・タイ・フィリピン・中国などで韓流ブームの勢いがとどまることを知らず、第4段階の手前の水準にまで達している。また、中南米市場では、ブラジル・アルゼンチン・チリ・ペルーのテレビ市場でサムスン電子がトップシェアとなっている。繰り返すが韓流マーケティングとは、官民一体となって映画・ドラマ・音楽などの文化コンテンツを輸出し、それを活用して韓流ファンを創り、韓国製品を販売するというものである。そしてその突破口となったのは、アジア市場である。しかし中南米市場は、アジア市場とは少し様相が違っており、韓流が自然発生的に広まっている。人気ドラマやK―POPに関心を持っている10代や20代の韓流ファンたちがツイッター、フェイスブック、ユーチューブなどオンライン媒体を通じて情報を得て、共有し、さらに独自の媒体を作って広めている。また、現地ファンたちは、韓国歌手の歌、パフォーマンス、衣装などを真似たカバーダンス動画をネットに流したり、自主的に競演大会を主催している。このように韓流は、韓国が官民一体となって人工的に作り上げるものから、ソーシャルネットワークを通じて自然発生するものへと進化している。最早、韓流は、ブームという一過性のものでなく、韓流文化として世界に根付きつつある。また、韓流マーケティングは、普遍的なマーケティング手法・理論として世界で認められ始めている。
果たして日本企業は、韓流マーケティングを超える日流マーケティングを再構築できるだろうか。この答えは、簡単には出せない。ただ日本企業の中には、韓流マーケティングと日流マーケティングを対立させるのではなく、韓流マーケティングを逆利用する知恵や事例が出始めている。事例の1つ目は、日本の飲料メーカーや日用品メーカーが、日本のテレビ番組で放映されている韓国ドラマのスポンサーになり、日本の韓流ファンに対して高い広告効果をもたらしている。しかし韓国ドラマの放映や日本のテレビ番組に出演する韓流スターが増えたため日本の芸能人の一部が、仕事が減るなどの理由で反韓流発言をしたのをきっかけに、ネットでの批判や反韓流デモが起きた。日本の飲料メーカーや日用品メーカーの商品は、ネット上で汚らしいとか、不潔などと書き叩かれ、不買運動も仕掛けられた。結果的には、不買運動に繋がらなかったどころか、これらの日本メーカーは過去最高の売上高を記録した。
事例の2つ目は、日本の大手小売店・コンビニや食品・飲料・コスメ・化粧品・アパレルメーカーが、韓流フード、韓流ヘア、韓流ファッション、韓流音楽(K―POP)などの韓流アイテムを取り入れて、イベントや販売促進を行っている。
3つ目は、韓国現地で本場の韓流マーケティングを活用していることだ。ホンダの韓国子会社ホンダコリアは、韓国のケーブルテレビチャンネルで放送されたドラマ「ビッグヒット」に協賛し、大型高級車「レジェンド」と小型ハイブリッドカー「インサイト」を提供した。韓国ドラマの中に日本製品を食い込ませて、韓流を逆利用した。
さらに韓流マーケティングの逆利用を考えるならば、アジア・新興国市場を開拓する時に韓国のマーケティング会社を使うという発想もできる。韓国のマーケティング会社は、サムスンやLGなどのアジア・新興国市場の開拓を請け負ってきたことから相当鍛えられており、豊富な実績とノウハウをもっている。特に現地消費者の心理や本質に深く入り込み、潜在的な欲求や無意識のニーズまでも掘り起こす能力に長けている。例えば消費者調査の際、その消費者の口から出てくる意見を鵜呑みにせず、疑問視し、しつこく質問や対話を繰り返す。それでも納得できなければ、消費者の意見を否定することもある。
これに対して消費者は、当然反発し、喧嘩腰になったり、お互い気まずくなって相当、不愉快な思いもする。しかし消費者の中には、一瞬驚き、当惑するが、その後自らの潜在的欲求や無意識のニーズに気づく人もいる。このように消費者と真正面から向き合って必死に議論し、消費者の自己矛盾と企業の怠慢・都合を徹底的に洗い出した時に、これまで誰もが気づかなかった潜在的欲求や無意識のニーズが発見できるのである。韓国のマーケティング会社は、このようにして眠っている欲求やニーズを掘り起こし、即座にこれらを製品開発や販売促進に反映しているのである。