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2014/02/14

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第13回 2014年のキーワードはロシア                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

◆ユーラシアのダイナミズム取り込め◆

 2014年は、「ロシア」が、ソチ冬季五輪の開催や世界の政治経済におけるプレゼンスの向上により、日本企業にとっても、韓国企業にとっても重要なキーワードになると考えている。前回まで2回に分けてサムスンとLGのロシア戦略を詳細に分析したが、さらに韓国のロシア戦略を深掘りする。

 ロシア市場での韓国企業の躍進の背景には、韓ロ両国のそれぞれの思惑の一致があると考えられる。李明博・前大統領は、08年2月の就任後、ロシアを3度訪問し、メドベージェフ・前大統領と6回にわたり韓ロ首脳会談を行った。李前大統領の対ロシア戦略は、一言でいえば「エネルギー・鉄・緑の3分野の新シルクロード戦略」であった。「エネルギーのシルクロード」とは、韓国の技術力とロシアのエネルギー資源を結び付けること。「鉄のシルクロード」とは、朝鮮半島鉄道とシベリア鉄道の連結により鉄道の大動脈を築くこと。「緑のシルクロード」とは、ロシア沿海地方の農地で韓国の営農技術や効率的な経営システムを導入することである。

 「エネルギーのシルクロード」戦略では、ロシアの天然ガス導入や西カムチャツカ海上鉱区開発などを共同で行うことで合意している。ロシアの天然ガス導入は、韓国ガス公社がガスプロム社から天然ガスを購入するMOU(了解覚書)を締結し、韓国ガス公社が年間750万㌧の天然ガスを30年間にわたり購入する。750万㌧の天然ガスは、韓国総需要(3350万㌧)の22%に達し、総購入額は900億㌦に上る。韓国は、天然ガスを中東(カタール、オマーン)や東南アジア(マレーシア)に90%以上を依存していることから、調達先の多角化を図る。

 一方、ロシアは、同事業協力を足がかりに東シベリア極東ガス田を開発し、アジア太平洋地域への輸出拡大を狙うと見られる。また、韓国とロシアとの間で「ウラジオストク~北朝鮮~韓国ガスパイプライン」の共同建設(総投資額30億㌦)が合意されている。このガスパイプライン計画は、ロシアのメドベージェフ大統領(当時)と北朝鮮の金正日総書記(11年12月死去)の間でも11年8月のロ朝首脳会談(東シベリア・ブリヤート共和国首都ウランウデ)で合意されている。このパイプラインが完成すれば、韓国は手頃な価格でガスを、ロシアは安定した供給先を、北朝鮮は通過料収入(1億㌦)をそれぞれ確保できるため、3カ国間の利害は見事に一致する。

 さらに、西カムチャツカの油田およびガス田の開発が再開することとなった。この案件は、韓国石油公社など韓国企業連合(7社)が04年からロスネフチ社と共同開発し、探査費用2500億ウォンを投資していたが、08年8月にロシア政府からボーリング作業の遅れなどを理由に契約解除通告を受け、白紙状態となっていた。

 「鉄のシルクロード」戦略は、朝鮮半島鉄道とシベリア鉄道の連結事業である。同連結事業は、「韓国・ロシア・北朝鮮の三角経済協力」が韓ロの関係増進と北東アジア平和安定に重要な役割を担うと位置づけ、北朝鮮の羅津港~ロシアのハサン鉄道補修を共同で行う。

 韓国は、コンテナを釜山港から羅津港に海上輸送し、羅津港~ハサン鉄道経由でシベリア鉄道に繋げる。将来的には、朝鮮半島縦断鉄道を近代化し、シベリア鉄道との連結を目指している。因みにロシアと北朝鮮は、羅津港~ハサン鉄道補修(全長54㌔)および羅津港埠頭建設工事を08年10月に着工した。鉄道補修事業は、ロシア鉄道と羅先市が設立した合弁会社(出資比率ロシア70%、北朝鮮30%)が推進している。同鉄道コンテナ処理能力は年間40万TEU(1TEUは20フィートの長さのコンテナ1個分に相当)で、将来的に70万TEUを計画している。羅津港~ハサン鉄道補修は、11年10月に一期工事が完了し、試験運行が行われた。

 「緑のシルクロード」戦略は、韓国がロシア沿海地方で農業を展開し、北東アジアの食料基地を作る構想である。韓国企業は現在、ロシア沿海州に51万ヘクタールの農地と50カ所の農場を運営しており、現代重工業は09年4月に1万ヘクタール規模の農場を確保した。

 韓国がロシア沿海地方を食料基地として狙う理由は、1つに韓国と距離が近いため輸送費負担が少ないこと。2つ目は、4万人の高麗人(韓国系移民)が居住しており、文化的親密度が高いこと。高麗人は、1860年頃から移住し、20万人が居住していたが、1937年、当時のソ連がこれらすべての高麗人を中央アジアに強制移住させた歴史的経緯がある。3つ目は、沿海州と北朝鮮が隣接しているため、北朝鮮労働者の活用や現地から北朝鮮への直接食料支援などの構想もある。

 このような良好な韓ロ関係は、12年5月に就任したプーチン大統領(61歳)と13年2月に就任した朴槿惠大統領(62歳)にも引き継がれている。13年11月にプーチン大統領が8年ぶりに韓国を訪問して朴槿惠大統領と韓ロ首脳会談を行った。

 韓国は、自らの商用化能力や経験とロシアの優秀な基盤技術や資源を結びつけて、ロシアとの貿易・投資拡大の相乗効果を飛躍的に高めようとしている。一方、ロシアは、経済の近代化や経済発展の遅れた極東シベリア地域の開発に、韓日中を競わせながら技術導入を図ろうとしている。このような韓国とロシアの思惑は、思う通りに行くかどうかは分からない。ただ、両国の強いリーダーシップ、グランドデザイン力、地政学的戦略力は、参考になる。これらは、アジア・ユーラシアダイナミズムのエネルギーを取り込むために最も大切な能力ではなかろうか。


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