ここから本文です

2014/03/14

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第14回 君子豹変のリーダーシップとは                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

  • 韓国企業と日本企業 第14回 君子豹変のリーダーシップとは

◆改革・変革の時に応じて過ち改めよ◆

 韓国企業の強みは、オーナー経営者の独創的な経営哲学と強烈なトップダウンである。例えばサムスングループの李健熙会長(72)は、独創的な経営哲学に基づき、大胆な経営改革を断行した。その結果、売上高は、会長就任時の1987年に1兆円だったものが、2013年には22兆円にも達した。李会長は、26年間で10度にわたって経営哲学を塗り替えている(図表参照)。まさに「君子豹変す」であり、李会長は、「君子10度豹変す」と言える。「君子豹変す」とは、「君子は、改革・変革の時に応じて過ちを改め、豹のように毛色を美しく変える。一方、小人は、心にもないのに顔つきだけを改める」ということで、良い方向へ改めるという意味合いで使われる。非を隠すリーダーは山ほどいるが、非を認めて変えることのできるリーダーは、そうはいない。

 このような「君子豹変のリーダーシップ」によりサムスングループは、「巨大企業でありながら速い経営スピード」、「多角化しているが高度に専門化しているビジネス・ドメイン」、「オーナー経営者と専門経営者の調和」、「米国型と日本型の良いとこ取り経営」という独自の強みを生み出した。

 李会長のリーダーシップについては、多くの書物や論文があるが、改めて筆者なりに整理する。1つは、リスクをチャンスに変える能力に長けていることだ。解雇される心配がないオーナー経営者だからこそ、リスクに立ち向かえるのかもしれない。また、キャッチアップ経営の宿命として、リスクの中にしか利益は残されていないことを誰よりも自覚していたとも言える。さらに、北朝鮮リスクマネジメントの免疫が、リスクに対する抵抗力を強めているとの見方もできる。韓半島は、53年以降、韓国と北朝鮮に分断され、60年にも及び軍事的緊張状態にさらされており、幾度となく第二次韓国戦争勃発の危機に見舞われている。このようにリスクが恒常化しているため、危機的な状態であっても至って冷静に対処できるのではなかろうか。したがってリスクは、避ければ敵になるが、上手く付き合えば味方になる。

 2つ目は、勇猛果敢な行動力だ。決断力があるからこそ、結果的にスピード経営が後からついてくるのであろう。

 3つ目は、組織に健全な緊張感を吹き込む重みのある言葉と腹を括った人だけが発することができる存在感ではなかろうか。これは、経営者が、人事権などの権力を振りかざしたり、恐怖政治を敷いたからといってできるものではない。

 このようなサムスンや李会長の成功事例を上げると、日本のビジネスパーソンや専門家から「韓国経済や韓国企業は、いつまでも疾走し続けることができるのか」という質問をよく受ける。これに対して「韓国は、政治・経済・社会・企業の問題点は、日本の数倍あり、挙げれば切りがないが、ただ脇見をせず、迷わず、まっしぐらに走らざるを得ない。難題にぶつかればその時にその場で考え、新たな突破口を探さざるを得ない」と答えている。韓国は、ある意味で選択肢がなく、ただがむしゃらに走り続け、成果が出ようと失敗しようとそれをただ受け止めて前に進むしかないのであろう。とはいうものの、鬱積している問題が、いつ弾けてもおかしくないということを韓国自身も気づき始めている。一部の大企業の急成長による不均衡経済発展や所得格差などの経済問題や少子高齢化などの社会問題の解決に向けて取り組んでいる。この解決策を日本の経験や教訓から学び取ろうとしている。

 韓国企業にしろ、日本企業にしろ、オーナー経営者であれ、サラリーマン経営者であれ「君子豹変のリーダーシップ」を発揮するにはどうすればよいのだろうか。ある意味で簡単なことで、非を認めるだけでよいのである。ただ非を認めるには、既存知識、経験主義、固定観念、先入観、学歴、プライドが邪魔するかもしれない。それよりも自らの「良知」を信じ、素直に従えばよいのである。

 「良知」とは、人が生まれながらにもっている是非や善悪を誤らない正しい知恵である。そして非を認めることができれば、自ずと良い方向へ改める方法は見えてくる。これは、単なる理想論・精神論か、それとも究極の実践的リーダーシップ論か、その判断は読者に委ねる。


バックナンバー

<オピニオン>