◆在外同胞に同質感◆
在外同胞は韓国の国家建設、経済発展の重要な担い手だ。かつては移民者に対して「国を見捨てた者』と見えない差別も生まれた。国家が苦しい時に、民族が危機にある時に、と冷たい視線を浴びせられたこともあった。それでも海外移住は絶えることなく、現在では韓半島に居住する韓人の1割にあたる700万人が世界で暮らしている。
在外公館で作成した公館別在外同胞現況を取りまとめた2013年版の『在外同胞の現況』(隔年)によると、13年で176カ国・地域に701万2492名の海外同胞が居住している。これらの中には、1991年からいわゆる中国朝鮮族と呼ばれる中国同胞、旧ソ連12カ国でつくる主権国家の緩い連合体である独立国家共同体(CIS)に居住していた同胞、そして03年からは帰化した在日同胞も含まれている。
国別でみると、歴史的移住者が多い中国が257・4万人と最も多く、次に移民が盛んであった米国の209・1万人、強制連行等により移住した日本の89・3万人が海外同胞3大国で、統計上最も少数は西インド諸島内に位置し英連邦王国の一国であるバルバドスの1名だ。
ちなみに海外居住者をくくる言葉としてコリアンネットワークとよく言われるがその範囲は漠然として使われている。現在国連加盟国が193カ国であり、韓国の在外同胞は176カ国に暮らし、その比率は91%に達する。これがコリアンネットワークの最大規模と言えよう。つまりコリアンネットワークとは数量的に見れば韓国を中心軸とした世界的民族ネットワークなのである。但し、コリアンの範疇は韓国だけでなく、北朝鮮同胞もくくる総合的概念として使われることもあり注意を払う必要があろう。
分断状態にある国家、民族にとってこうした海外民族との連携をどう図るかと言う問題は、国家の概念より民族統合、連携をどう図るかが優先されるかもしれない。つまり、どの様な国家体制にするかは統合、連携された民族の選択である。しかし現存する分断国家では、その条件の中で民族がどのような国家体制の形で収斂するかによってその選択肢が決まるだろう。簡単に言えば、現状国家が民族統合にどの様な取り組みをするのかと言うことだ。
韓国の在外同胞政策は、これまでどうであったかと言えばあまり温かいものではなかった。移民者に対する政策は1902年公式移民船以来の歴史があるが、国籍を放棄した者に視線は向かなかった。例えば、現行の住民登録法では海外居住者が自ら移住国の永住権などを放棄しない限り、韓国の住民登録ができないように規定されているため、移住により住民登録が抹消されれば、国民としての資格剥奪ということになり、韓国籍を維持している在外国民が国内で外国人扱いを受ける状態だ。こうした状況に対し棄民政策だと言われたこともあったようだ。
しかしこうした状況改善を強く印象付けたのは09 年2月12日に公布された改正公職選挙法で、駐在や留学などの事情で中長期的に海外に在住する韓国国民のみならず、日本生まれの在日韓国人を含む海外永住者も選挙での投票が可能となったことだ。とりわけ朴槿惠政権では海外同胞に対する政策志向が強まっており、選挙公約では①統合的かつ体系的な同胞政策の推進、②次世代同胞に対するハングル教育支援の大幅強化、③次世代経済人を含めたグローバル韓人経済人ネットワークの強化、④母国の国際開発協力事業に留学生及び次世代同胞が参加できる方案作成を掲げた。
これを受けた形で、13年7月9日の在外同胞政策委員会で「在外国民用住民登録証発給」などを含めた在外同胞政策推進計画が発表された。この中には海外永住権者で国内に30日以上滞留する目的で入国する在外国民に住民登録証の発給、次世代教育支援、在外公館での法務協力官による無料法律相談、法律救助公団のサイバー法律相談支援策、在外同胞の国内出入国便宜および滞留安定化の向上を図る「在外同胞対象の複数国籍の許容拡大」推進、永住帰国希望高齢同胞の複数国籍許容の年齢引き下げなどの支援策である。
こうした背景にあるのは、何よりも韓国民の理解が高まったことである。それは在外同胞財団が韓国リサーチと明智大に委託、実施した「2013年度在外同胞に対する国民認識調査」で国民の 67・2%が在外同胞に対して「韓国民としての同質感」を感じており、56・3%が在外同胞の韓国発展の寄与度に対して肯定的に評価している事実がある。