ここから本文です

2014/10/31

<オピニオン>韓国経済講座 第168回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第168回

◆そうは問屋が…◆

 韓国には問屋がない。過日韓国の小売・卸売業に関する研究報告で指摘されたことで、正確には卸売り組織が日本のように確立されていないと言うことである。問屋と言えば日本では廻船問屋、呉服問屋、薬問屋、米問屋などで知られる鎌倉、室町時代から輸送・倉庫・委託販売を兼ねた「組織問丸」に源流をもつ日本特有の業だ。現代では卸売業として商法第551条で、自己の名をもって他人のために物品の販売又は買い入れをすることを業とする者と定義され、実際は販売・買入れのみならず流通過程で様々な重要な役割を果たしている。

 一般的にその役割は、次のように言われている。その第1は調達・販売機能で生産者、市場から商品を調達し、彼らに代わって販路を開拓して小売業者に販売する役割で、卸売業の基本機能である。その2は物流機能だ。生産元・市場から仕入れた商品を保管して包装加工、仕分けなどをして小売業者へ配送する機能である。第3に金融・リスク負担機能が挙げられる。小売り以前に仕入れ先メーカーに代金を支払い、メーカーが次の投資ができるようにする金融機能と、商品が売れ残り、代金が回収できなかった場合のリスク負担をする機能である。4番目の機能は情報提供機能といわれる。卸業者がメーカーへ仕入れ製品の売れ行きや売れ筋など新製品開発や生産調整に役立つ情報を提供したり、小売業者には売れ筋の商品や新製品の情報提供や店舗経営のためのアドバイスをする機能だ。現在では卸売業のこの機能が期待されており、リテールサポートと呼ばれている。

 小売業者に経営や販売促進などを支援することで、卸売業者にとっても小売業者と密接な関係を築き両者にとって重要な機能となっている。

 冒頭に問屋がないと記したが、韓国の卸売りはどうなっているのだろうか。ここでは食と医薬の事例でみてみよう。韓国生鮮食料品の卸売市場機能を果たしている市場は公営卸売市場、一般法定卸売市場、民営卸売市場の3つに分けられる。公営卸売市場は、1976年に制定され2000年に改正した「農産物流通及び価格安定に関する法律」(以下、農安法)に依拠して特別市、広域市が開設し、指定卸売法人(荷受会社)に運営が任されている「法定卸売市場」である。一般法定卸売市場は農協などが農林部長官の承認を得て開設・運営する「共販場」で、農協が組合の販売事業の一環として開設したものであり、制度的には法定卸売市場に準ずる市場とされている。しかし、卸売り個々の取引規模はさほど大きくなく大型量販店の消費地市場拡大や卸売市場制度の改善政策などで農協共販場の改善が課題となっている。民営卸売市場は「類似卸売市場(委託商集団市場)」と呼ばれるもので、小売業の許可を受けた業者たちが集団化し、実質的に卸売市場の機能を果たし、韓国の伝統的な問屋の性格をもつ委託商人たちが卸売業務を行っている。


つづきは本紙へ


バックナンバー

<オピニオン>