◆年金制度の脆弱性について本格議論を◆
韓国の公的年金制度は現在、職域3年金と国民年金、そして基礎年金からなっている。まず、「特殊職年金」と呼ばれる職域年金は、1960年創設の公務員年金(61年実施)、63年創設の軍人年金(同年実施)、73年創設の私学教職員年金(75年実施)の3つの制度が存在する。そして、特殊職以外のサラリーマンや自営業者など一般国民に対する制度としては、86年創設の国民年金(88年実施)と2007年創設の基礎年金(08年基礎老齢年金実施、14年基礎年金へと名称変更)がある。ここでは主に、国民年金と基礎年金を中心に韓国における公的年金制度の展開過程と現況を紹介する。
韓国の年金制度は、73年の国民福祉年金法の制定によってはじめて導入された。この70年代初頭、韓国の高齢化率は3・1%で、英国の11年の高齢化率5・2%(公的年金制度の導入は1908年)、米国の1930年の高齢化率5・4%(社会保障法の制定は35年)、ドイツの1980年の高齢化率5・1%(老齢年金法の制定は89年)、そして日本の1940年の高齢化率4・8%(厚生年金保険の前身である労働者年金保険法は43年施行)に比べれば、非常に低い水準であった。
また就業者のうち半分以上が農林魚業に従事している典型的な農業中心社会であった。そして1人当たり国民所得は187㌦に過ぎない貧困社会であった。
このような状況のなかにあって、国民福祉年金が法制化できた理由は、それのもつ福祉的機能より、経済開発に必要な財政確保という経済的機能が強調されたからであるといわれる。たしかにこの法が制定された73年は、朴正熙政権が「維新体制」の構築とともに長期執権を試みながら、その正当化のひとつの手段として重化学工業育成による経済成長戦略を進めた時期と重なる。
73年に同法が国会で通過し、政府は施行法案をつくり保健社会部(現在の保健福祉家族部)に福祉年金局を、国税庁に年金徴収局を設置するなど、翌年の制度施行のための準備に取り組んでいた。しかし、73年末のオイルショックのため、翌年1月の緊急措置で施行を1年延期し、その後、再度1年延期し、75年12月には制度実施機関を大統領が決めることとして、事実上、無期限延期することとなった。それが、86年の法改正によって「国民年金法」へとその名称を変え、88年から実際にスタートされることになる。
国民年金は、当初は従業員10人以上の事業所を対象としていたが、その後、従業員5人以上の事業所(92年)、農漁村地域住民(95年)へと適用範囲を拡大し、98年の法改正によって都市地域住民、そして5人未満の事業所勤労者と日雇・臨時職勤労者など全ての国民を包括する制度になった。
03年には、臨時、日雇いおよび5人未満の事業所勤労者を地域加入者から事業所加入者へと転換させる改革が行われた。他方、98年の法改正の際には、保険料率の見直しを行い(9%から段階的に19・1%まで)、給付水準の適正化(40年加入時の所得代替率70%から60%)、支給開始年齢の引き上げ(60歳から段階的に65歳まで)など財政安定化のための施策が講じられた。
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