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2015/09/11

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第32回 AIIBとグローバルビジネストレンド⑤                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 学科長

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 学科長

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部事業構想学科長および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆大局的かつ相対的な中国理解を◆

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)について前回までの「①AIIBの概要」、「②AIIBに対する日米のスタンスとAIIBの問題点」、「③既存の国際金融機関の問題点」、「④中国の思惑」に続き、今回は英国の思惑を分析する。

 英国は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の申請期限2015年3月31日の19日前である3月12日にいち早く参加を表明した。英国の参加表明は、G7と欧州の中で最初であったため、G7や欧州諸国で大きな動揺が起きただけでなく、とりわけ日本に激震が走った。なぜならば日本は、安倍首相が「英国が参加する確たる情報はない」、「G7からの参加は絶対にない」などの財務省と外務省情報により参加を見送ったからである。この英国の参加表明により国際世論は、AIIB設立が日米への牽制という見方から、参加表明しない日米に対する懸念に変わった。それではなぜ英国は、AIIBへの参加に踏み切ったのか。その理由の一つは、AIIBを通じて中国との関係を強化し、中国・アジア市場での英国の影響力の拡大を図るためである。英国は、アジア開発銀行(ADB)にあまり関与していなかったため、アジアでの市場開拓やインフラ投資の機会が少なかったという事情がある。もう一つは、人民元取引を増大させるとともに、ロンドン市場を人民元を使った金融取引の中心的な市場に育てたいとの思惑があるためである。

 ただ、英国の参加表明に対して当然、否定的な意見もある。これに対して英国は、以下のように反論している。「英国は、アジアインフラ投資銀行に入ることで、中国の言いなりにならなくてすむ度合いが高まった」、「英国は中国に屈したという見方が広がっているが、その逆で英国は中国に恩を売った」、「中国に透明度の高い投資をさせるためには、創設時から加盟し、内側から監督し、経営を改善していく必要がある。AIIBに入らず外から批判するのではダメだ」。

 英国の参加表明は、唐突のように思われるが、英国がAIIBに参加する布石はあった。一つは、13年6月の英中首脳会談(キャメロン首相が中国を公式訪問し、習近平主席と会談)である。キャメロン首相は、「中国とEUのFTAが、英国に18億㍀(3371億円)の利益をもたらすとした上で、英国は中国の欧州最強の支持者になる」と述べた。このキャメロン首相の訪中には、100人以上の英国・ビジネスリーダーも同伴した。この背景には、独仏など欧州諸国首脳が中国新指導部と会談を積極的に行うなどの新時代に向けた対中関係の強化があり、英国は一歩後れを取った焦燥感がある。特に独仏が中国からインフラや輸出受注を取りつけていたことから、キャメロン首相が国内で圧力に直面していた。そこで中国との経済外交で巻き返しを図った。13年10月英国が、25年ぶりに新設する原子力発電所建設を中国に依頼した。英南西部ヒンクリーポイントの原発は、仏電力公社(50%出資)、仏原子力大手アレバ(10%出資)、中国の電力2社(中国広核集団と中国核工業集団が計40%出資)が建設することで合意した。この原発の新設計画は、EUによって承認されており、総事業費は245億㍀(4・5兆円)に上る。建設費用の一部は、英国の各家庭が35年間(年間8㍀=1498円)にわたって負担する予定である。


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