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2015/10/23

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第33回 AIIBとグローバルビジネストレンド⑥                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 学科長

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 学科長

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部事業構想学科長および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆米中サンドイッチジレンマの韓国◆

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)について前回「⑤英国の思惑」に続き、最後は韓国の思惑を分析する。韓国がAIIBに参加表明した理由は、以下のことが考えられる。アジア・ユーラシア市場のインフラ需要を取り込むとともに、中国との経済連携の強化を図れる。また、中韓関係の強化を通じて北朝鮮問題で交渉を有利に運べる。さらに、もしAIIBが北朝鮮に投資するようなことになれば、南北統一費用が軽減されるというメリットが期待できる。一方、デメリットは、韓米関係に支障が出ることである。韓国は現在、米国のTHAAD(サード、米国が100億㌦を投じて開発した弾道弾迎撃ミサイル)の導入を検討している微妙な時期である。韓国がTHAAD導入を検討する理由は、韓米同盟の強化を通じて北朝鮮を制圧し、最も効果的な戦略である「不戦勝」を勝ち取れるからである。

 韓国のTHAAD導入は、日米や東アジアの安全保障と関わる大変複雑かつセンシティブな問題であり、韓国世論でも賛否両論がある。韓半島の平和統一は、北東アジアの安保と平和に大きく寄与する。しかし北朝鮮がこのまま南北対話に応じず、「核・経済並進路線」に固執し、「挑発-危機-妥協-補償-挑発」という悪循環を繰り返すならば、韓国はTHAADの導入を通じた抑止力の強化を図らざるを得ない。ただ、THAADを導入するには中国に対する説得が必要となる。

 その方法としては、THAAD(1つの砲台2000億円、命中率90%)が、中国を牽制するものでなく、北朝鮮の核兵器とミサイルの脅威を完璧に防げる兵器だということを立証することである。米国は、北朝鮮が初めて核弾頭ミサイルの小型化に成功し、米国本土に発射できると公表する一方、THAADが北朝鮮のミサイルに対処する決定的な戦力と公表している。今年4月、ゴートニー米軍北部司令官が、「北朝鮮が核弾頭ミサイルの小型化に成功し、米国本土に発射できるレベル」と述べた。このような発言を公の場でするのは初めてである。また、14年5月フランク・ローズ米国務次官補が「THAADは、北朝鮮のミサイルに対処する決定的な戦力」と述べた。しかし矛盾点もある。米国自身は、THAADが世界で最も防衛能力が高いと言いながらも3つしか持っておらず、足らないぐらいである。米国が自己防衛のために足らないと言っているTHAADをなぜ韓国に優先的に、それも3つも配備しようとしているのか。米国は、韓国を北朝鮮の核・ミサイルから守ろうとしているのか、それとも韓国のTHAADを使って北朝鮮・中国・ロシアの攻撃から米国自身を守ろうとしているのか。

 このような事情から韓国は、AIIBへの参加に対して米国から反対される一方、THAADの導入に対して中国から反対されており、「米中サンドイッチ・ジレンマ」に陥っている。THAADに関しては、ロシアからも反対されている。この理由について駐韓ロシア大使が、「ロシア国境から遠くない地域にTHAADを配備するのは危険だ」、「これが北東アジアの軍備拡張競争を刺激する恐れがあり、朝鮮半島の核問題の解決をさらに複雑化させる」と述べている。

 そこで韓国は、「経済は中国」+「安保は米国」=「安米経中」という外交戦略を展開しようとしている。この戦略の本質的意図は、様々な見方があるが、筆者が信頼する韓国の某国際政治学者は以下のような見方をしている。韓国は、単なる親中派でも、親米派でもない。また、単に米中間のバランスを保っているだけでない。米中と積極的に外交を展開し、米中のそれぞれの弱みを十分踏まえるとともに、強みと役割を最大限活かして韓国独自の外交価値を創造するという見方をしている。


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