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2015/05/22

<オピニオン>転換期の韓国経済 第63回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第63回

◆過度な輸出依存◆

 IMF(国際通貨基金)理事会は今年の対韓国4条協議を完了し、5月13日にその内容を示すプレスリリースを公開した。二つの点が注目される。一つは、輸出に過度に依存した成長を是正し、内外需バランスのとれた成長の実現を勧告していることである。韓国政府の金融・財政政策にもとづく内需活性化策を評価しつつも、下振れリスクが高まっているため、追加的な手段をとる余地があるとの見解を示している。

 内外需バランスのとれた成長を実現する上でサービス産業の生産性向上が鍵になっていると指摘した他、労働市場改革、有望な中小企業の育成、競争の強化などを含む諸改革を通じて潜在成長力を引き上げる取り組みを評価するなど、概ね韓国政府が推進する政策を支持する内容になっている。

 もう一つは、為替政策に関して、柔軟な為替レートを維持することが内外需バランスのとれた成長につながるため、為替介入は限定的にとどめるべきだと勧告していることである。韓国の為替政策(為替介入によるウォン安誘導)に対して、これまでもIMFは是正勧告をしており、その意味では「警告」として受け止めた方がいいだろう。韓国国内では、景気を回復させるためには輸出の拡大が必要であり、そのためにウォン安誘導政策をとるべきであるとの意見が根強く存在する。日本やEU(欧州連合)が進める量的金融緩和政策とそれによる通貨安がこの主張を勢いづけている。

 こうした主張が繰り返し登場してくるのにはそれなりの理由がある。すなわち、①内需が小さいため、内外需バランスのとれた成長は難しいこと、②大企業の生産能力を維持(雇用の維持)するために、輸出を重視せざるを得ないこと、③政府の進める改革は方向として適切とはいえ、やり遂げる上で阻害要因が多く、時間を要することである。さらに昨年半ばから景気対策が講じられてきているが、これまでの効果が限定的なことも、輸出主導型成長への回帰を期待する声になっていると考えられる。

 しかし、これらを論拠に、ウォン安を通じた輸出の拡大策が正当化されるかは別問題である。というのは、近年ウォン高が進んだ背景に、経常黒字の拡大があるからである。一般的に黒字は良いとされるが、必ずしもそうとはいえない。近年の投資・貯蓄率を2000年代半ばと比較すると、貯蓄率はやや上昇したのに対し(高齢社会を控えて家計の貯蓄志向が強まったこと、企業が投資を控えて内部留保を増やしたことが影響)、投資率が著しく低下したことがわかる(下図)。


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