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2015/12/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第70回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第70回

◆チャイナショックの広がり◆

 来年の世界経済は、中国をはじめとする新興国経済の動向が鍵を握りそうである。中国経済自体は政府の景気対策もあって7%近い成長を維持できるであろうが、中国の成長鈍化(とくに投資の抑制)や生産過剰がもたらす影響(チャイナショック)が続くと考えられるからである。

 今年第3四半期(7~9月)の実質GDP成長率は、ブラジルが前年同期比4・5%減(6四半期連続でマイナス)になったのに対して、インドは同7・4%増であった。

 一時期BRICsとして注目された両国であるが、近年の成長率の違い(上図)はどこに起因するのであろうか。いくつかの要因が指摘できるが、最大の要因はチャイナショックを受ける度合いであろう。

 ブラジルでは輸出の半分近くを一次産品(鉄鉱石、大豆、原油など)が占め、しかも中国が最大の輸出相手国(2014年の対中輸出依存度は18・0%)になっている。中国が高成長を続けていた時期には、資源需要の増大(資源価格の高騰)によるプラス効果を受けた。

 輸出の拡大により成長が加速し、投資と消費が伸びたほか、歳入の増加を背景に低所得層の底上げ(低所得層に対する現金給付、住宅融資プログラムなど)が進められた。

 しかし近年、中国経済の減速に伴う資源需要の減少(資源価格の急落)で輸出が落ち込み、貿易収支の悪化と通貨安につながった。通貨安によって輸入インフレが加速したため、①インフレ抑制を目的にした金融引き締め、②財政赤字削減のための歳出削減を余儀なくされた。

 加えて、資源開発プロジェクトの中止もあり、投資が著しく減少している。15年に続き、16年もマイナス成長が予想されている。また、自動車販売台数は13年以降前年割れが続いており、15年(1~10月)は24・3%減となった。

 他方、インドでは14年の対中輸出依存度が4・2%と低く、チャイナショックを受けにくい構造になっている(ただし中国は最大の輸入相手国)。しかも基本的に原油を輸入しているため、原油価格の下落により高インフレの是正が進み、金融緩和が可能になった。自動車販売台数も堅調に伸びており、ブラジルとは対照的である。

 このように、資源の供給を通じて中国との関係を強めたブラジルがチャイナショックを強く受けたのに対して、インドでは対中依存度の低さが結果として、チャイナショックを軽くしている。

 ブラジルの例が示すように、来年の世界経済を展望する上で、チャイナショックに引き続き注意する必要がある。実際、原油価格が下げ止まらないのはその証左でもある。一次産品価格の下落が続けば農村の所得が減少し、貧困が増加するリスクもある。

 12月8日に発表された世界銀行のレポート「Slowdown in Emerging Markets」も、新興国の成長鈍化がしばらく続く可能性があることを指摘している。


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