ここから本文です

2015/06/26

<オピニオン>韓国経済講座 第175回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

◆「狩猟型」と「稲作型」◆

 人はどう集いそれをどのように運営するのだろうか。人が集まるには目的があり、それを達成するために最も効率的な運営をしなければならないのは論を待たない。ではその方法はというと、その集いによって違いがある。それはその集う人々の慣習、社会背景、歴史、文化が投影されるからである。古い慣習から言うと「狩猟型」と「稲作型」に分けることができよう。前者は一点(獲物)に向かってその時々に瞬時に動きを決めなければならず、賢くて強いリーダーの指令に全員が気持ちを一にして従わねば獲物一匹確保できない。したがって「狩猟型」社会では強いリーダーの存在が重要となり、個人はリーダーに対して従順であることが求められるのだ。現代社会では、権力、資金力、地位・名声などに集うタイプである。

 他方、後者の「稲作型」社会は、複数の世帯が共同で稲作作業を行うことによってはじめて個々にとって十分な食糧が得られるため、稲作社会では共に生きる心によって人間関係が形成される。各参加者に求められるのは、共生意識を持ちひとりひとりの構成員が自立していることが重要で、優れた個人の集合が、優れた共生社会を形成することになる。つまり「稲作型」は、独断的な強いリーダーより民主的な調整者的リーダーに従う社会である。

 これに近い論法は、国家の形成研究にも適応されている。ある研究では、アジア諸国の国家形成段階を植民地から独立し、地方勢力を一つにまとめ挙げ新生国家を実現する「国家統合の時代」とし、ここでは統率力の高い政権と権威主義体制が求められる。次に豊かな国民経済を実現するため「開発の時代」に入り、国家が経済を主導する権威主義的国家主導型開発パターンを形成する。その後社会の成熟に伴って「民主化の時代」へと移行すると論ずる。

 ところで、このような考え方が身近な組織を見る時にも有効である。海外へ移民した韓国経済人で構成する「世界韓人貿易協会(World OKTA)」は、2015年6月現在で世界69カ国に136の支会を持ち、日本には5支会がある。その中の千葉支会は06年に在日中国朝鮮族を中心に創設され、来年で10年となる。この支会はこれまで4人の会長によって組織づくりがなされてきた。

 設立に当たって努力したのは初代会長となった朴景洪である。当初は組織造りと同時に会員集めにも力が入れられた。当時在日朝鮮族の組織として、日本での民族同士が友好・懇親を図る「天地協会」、延辺大学卒業生から成る「延辺大学日本校友会」が大きな組織として定着しており、彼らにとって、新たに登場した在日韓国人によって構成されていたOKTAの日本支会に中国出身の朝鮮族の組織が参加することに違和感を持っていた。そのため、千葉支会の会員も会長の身近な友人、知人、紹介を受けたものなどに限られていた。それでも千葉支会は彼の指導のもと次第に組織整備が進んでいった。ただ、彼の組織運営は「狩猟型」で、責任感の強い性格から事務的な業務以外はすべて自分が運営し、会合でも最初から最後まで発言を続けたこともしばしばあった。しかし、千葉支会の創設には彼のような強いリーダーシップは欠かせなかった。また資金投入も含めて彼の初期的貢献は余人に代えがたいものである。「狩猟型」は千葉支会創設初期には極めて有効な方策だった。


つづきは本紙へ


バックナンバー

<オピニオン>