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2015/11/06

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第1回 TPP大筋合意が韓国に与える影響                                                    ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆焦らず加入に備え対策推進を◆

 10月5日、米国や日本を含む12カ国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)が土壇場になって大筋合意に達した。2010年3月の交渉開始から実に5年半を経てのできごとである。今後12カ国が最終合意や署名をし、批准がなされ発効すると、世界GDPの4割弱を占める最大の経済ブロックが誕生するようになる。当初2日間を予定していた12カ国の閣僚会合が3回も延長され5日間にわたり行われたのは異例のことである。その背景には来年大統領選挙や参議院選挙を迎えている米国や日本が今回で決めないと、これ以上機会はないという切実さと、日々拡大しているアジアにおける中国の覇権を牽制しようとする日米の政治的思惑が一致したことがある。

 今回のTPP妥結により、FTAでは日本に先立っていた韓国が日本に追い越される形に状況は一変した。実際に、韓国にもTPPに参加する機会はあった。08年にTPPに参加した米国は数回にわたり韓国政府にTPPへの参加を勧誘したものの、韓中FTAを優先的に考えた韓国政府は、TPPへの参加を見送ってきた。その背景には韓米FTAが発効されたことや、TPP参加国の中で日本とメキシコを除いた10カ国とすでにFTAを締結しており、TPP参加への切実さが低かったことがあっただろう。今回のTPP協定の中で韓国政府や企業が最も敏感な反応を見せている部分は、複数参加国の付加価値の累積を認める「累積原産地規則」である。TPPが発効すると、12カ国の付加価値は合算することができる。つまり、TPP加盟国で生産された部品や素材などを含む中間財が自国産と認められ、加盟国内に輸出した場合、特別に優遇された関税が適用される。TPPに加入していない韓国の中間財を使った場合は同規則が適用されないので、今まで韓国で供給されていた中間財を加盟国からの調達に切り替える動きが発生し、韓国の中間財の輸出が減少するおそれがある。輸出品の中で中間財が占める割合が高い韓国にとっては大きな打撃になるだろう。また、原産地基準を満たすために、国内工場がTPP加盟国に移転されると、韓国の国産産業は空洞化し国内雇用は減少する心配もある。

 このようにTPPへの未加入が韓国経済に与える不利益を最小化するために、韓国政府はTPPへの加入に積極的な立場を見せているものの、今後TPPに参加するためには、それ相応の対価(値上がりした入場料)を支払わなければならないだろう。その代表的なのがコメなど農産物市場の開放である。崔炅煥・経済副総理兼企画財政部長官は「TPP加盟を決定する際、コメ市場は引き続き保護するというのが政府の方針だ」と強調しているが、日本が今回の協定でコメ、乳製品、サトウキビ、牛肉、豚肉という5つの分野で関税や非関税障壁をかなり撤廃することを決めた以上、後から加入申請をする韓国が農産物市場を開放しないことは難しいと思われる。

 また、日本による韓国市場の開放圧力も高まり、例えば日本車に対する関税が引き下げられるか撤廃されれば、日本車の輸入が大幅に増加し、日本との貿易赤字はさらに増加することが予想される。


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