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2016/11/04

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第13回 格差広がる韓国社会、まずは「教育改革」を!                                                    ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆大学受験中心の教育から脱皮を◆

 1997年のアジア経済危機以降、韓国社会には貧困、格差、不平等が広がり始めた。韓国社会における不平等は教育、労働市場、所得、資産等の多様な分野で発生しており、田昞裕・韓神大学校経済学科教授らは、これを「多重格差」と呼んでいる。多重格差とは、所得、資産、消費、教育、住居、文化、健康等の多様な分野で格差が発生している現象を意味する。更に、これらの格差は独立的に存在せず、互いに影響を与えながら格差をより広げる役割をする。つまり、所得や資産の格差が消費や文化活動の格差に、そして子どもの教育環境や健康状態等につながっている。過去には「鳶が鷹を生む」ことが可能であり、受け継ぐ財産などがない人が自分の力で暮らしを立てたサクセスストーリーが度々マスコミ等によって紹介された。なので、経済的に恵まれていない人でも本人さえ努力すればいつかは成功するという希望をもって頑張ることができた。しかしながら、最近の韓国社会は「鳶が鷹を生む」確率がますます低下している。

 統計庁が2016年2月に発表した「2015年初中高等学校私教育費調査結果」によると、15年の平均世帯月収が700万㌆以上世帯の学生一人当たりの1カ月の平均私教育費は42万㌆で、平均世帯月収が100万㌆未満世帯の6万2000㌆より約7倍弱も高いことが分かった。私教育を受けている学生の割合も前者が82・8%で後者の32・1%を大きく上回っている。問題はこのような私教育費や私教育への参加率の差が学業成績や大学への進学率にも影響を与えている点である。まず、上記調査による学業成績への影響をみると、学業成績上位10%以内学生の私教育費は31・6万㌆で、下位20%学生の16・8万㌆より約2倍弱も高かった。また、学業成績上位10%以内学生の私教育への参加率は79・1%で、下位20%学生の55・9%を大きく上回っていた。

 さらに、韓国労働研究院のパネルデータを分析した論文では、親の所得水準が大学の進学率に影響を与えるという結果が出ている。論文では04年に小学校4年生であった生徒895人が14年に大学に進学するまでの10年間を分析している。分析結果から世帯の所得水準による子どもの大学進学率を見ると、低所得層が74・9%、中間層が91・2%、高所得層が93・9%で、低所得層と高所得層の進学率の差が19㌽もあることが確認された。さらに、4年制大学への進学率は低所得層が39・0%、中間層が57・5%、高所得層が70・5%で世帯の所得水準により大きな差を見せている。

 教育水準は卒業後の雇用形態にも影響を与えていた。経済活動人口調査(14年8月)による雇用形態別賃金水準を見ると、最終学歴が中卒以下の者の場合、雇用者のうち正規職の比率が41・7%で半分以下が正規職で働いていることに比べて、最終学歴が大卒以上の者は、正規職の比率が78・2%で約3分の2が正規職で働いており、教育水準により労働市場における雇用形態に差が発生していることが確認された。また、教育水準は雇用形態だけではなく賃金水準にも影響を与えている。統計庁の経済活動人口調査(15年3月)による雇用者の学歴別1カ月の平均賃金をみると、高卒が196万㌆であることに比べて短大卒は230万㌆、大卒は299万㌆で高卒と大卒の間に100万㌆以上の差があることが分かった(田昞裕ほか著(15年)『多重格差』より引用)。親の所得水準が教育水準の格差に、教育水準の格差が雇用形態や賃金水準の格差につながっている。だから、親としては経済的に余裕がなくても自分の子を大学に進学させているのである。その結果多くのエデュプアが発生している。エデュプアとは、英語のエデュケーションプアの略語で、家計が赤字で負債があるにも関わらず平均以上の教育費を支出したために、貧困な状態で生活する世帯、いわゆる「教育貧困層」である。現代経済研究院の推計結果(11年基準)によると、都市部の2人以上世帯のうち、子どもの教育費に平均教育費以上を支出する世帯は288・7万世帯で、このうち負債があり、家計が赤字状態である世帯、いわゆるエデュプアは82・4万世帯に達した。つまり、子どもの教育費を支出する世帯(632・6万世帯)のうち、13・0%はエデュプアであるという結果である。また、最近の雇用者1202人に対する調査結果では、回答者の44・6%が自分はエデュプアであると答えていた。経済状況が厳しい中で、子どもの教育のために自分の人生を諦めている親が増えている。大学進学を中心とした教育風土やそれによる過剰な教育熱が社会全体の幸福度を下げ、韓国社会全体に無駄なコストを発生させているのである。


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