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2016/12/02

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第14回 中国の「限韓令」をどう乗り越えるのか?                                                  ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

  • 曲がり角の韓国経済 第14回 中国の「限韓令」をどう乗り越えるのか?

◆日本の事例を参考に落ち着いた対応を◆

 韓米両国が7月8日に北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対処するために、在韓米軍への最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の配備を決め、その場所を慶尚北道・星州に決定(同13日)してから韓中関係が急速に冷え切っている。中国語圏最大のソーシャルメディアである微博(ウェイボー)では、中国の有名テレビ局が「韓流スターが登場するドラマや広告、映画の放送を禁止する」という通達を出したとの情報が流れており、韓国国内ではいわゆる「限韓令」を憂慮する声が高まっている。

 中国政府は「限韓令」を否定しているものの、インターネット上に「限韓令」が広がることにより、中国関連企業の株価が急落する等、韓国経済にとって不穏な空気が広がっている。韓国証券取引所の発表によると、エンターテインメント、化粧品、カジノ、電気自動車のバッテリー等、中国と密接な関係がある20業種の代表種目の時価総額は、9月30日の約96・8兆㌆から10月25日には84・1兆㌆に約12・7兆㌆も減少したそうだ。

 韓国の現状は、4年前の日本と似たところが多い。日本政府が2012年9月11日に尖閣諸島の国有化を完了すると、尖閣諸島の領有権を主張している中国政府はこれに反発し、尖閣諸島海域へ海洋監視船を派遣し、日中間の緊張が高まった。中国では尖閣諸島問題に端を発した反日デモが起き、北京の日本大使館の窓ガラスが金属球で割られる事件が発生した。暴徒化したデモ隊はジャスコ等の日系スーパーや食堂に乱入し、破壊や略奪行為を行い、工場の生産設備も破壊される被害が出た。

 中国国内では日本製品の不買運動が広がり、トヨタやホンダ等日系自動車メーカーの販売台数は急減した。反日デモが続くと、パナソニック等の日本企業は、工場を休業することを決め、従業員を自宅待機させる等の緊急措置を取った。さらに、中国の税関で日本製品の「通関待ち」が長引いていることから被害を受ける企業が続出した。中国各地で起きた反日デモで日系企業が受けた被害額は「少なくとも数十億~約百億円規模(日本製品の不買運動による影響は含まない)」に上ると発表された(日本経済新聞、12年10月24日)。

 日本企業への被害は中国だけに留まらず、日本でも発生した。尖閣諸島の国有化への反発などから中国人観光客のキャンセルが相次ぎ、その影響で日航は日本と中国を結ぶ3路線の減便を発表し、中国進出を先行している企業の株価が急落した。また、訪日中国人の数も12年の142・5万人から13年には131・4万人まで減少した。反日デモが続くことにより日本企業の被害は増え、将来に対する不安の声も高まったものの、尖閣諸島の国有化を撤回すべきだという主張はほぼなく、日本政府や企業の間では脱中国化の動きが広がり始めた。日本政府は、中国以外の観光客も増やす目的で、東南アジア諸国の訪日ビザを免除・緩和する政策を行った。また、中国に進出した中小企業の間では中国以外の東南アジアなどにもう1つ生産拠点を持つ「チャイナプラス1」の動きが広まった。「チャイナプラス1」とは、反日デモや賃金の高騰、公害問題など、中国のマイナス面が現れてきたことによって、生産拠点を中国以外の国に移転しようとする動きである。その影響なのか中国への在留邦人数は12年の15万399人をピークに減り続け、15年には13万1161人まで減少した。

 一方、中国に拠点を置いている日系企業の数は12年の3万1060社から15年には3万3390社まで増加したものの、同期間における伸び率は


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