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2016/03/11

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第38回 アジア・グローバル人材と北朝鮮に関する教養教育                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 学科長

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 学科長

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部事業構想学科長および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆客観的分析でより大きな国益の実現を◆

 前号からは、アジア・グローバル人材育成のための教養教育について連載を始めている。今号は、北朝鮮に関する教養教育の内容について紹介する。北朝鮮に関する理論・知識・情報は、韓半島や韓日の平和のみならず、北東アジアや世界の安全保障を考える上で大変重要であることは言うまでもない。特に核・ミサイル・拉致問題に関する情報は、収集・分析・発信がリアルタイムに求められている。一方、グローバルビジネスにおいても大変重要であると言わざるを得ない。なぜならば北朝鮮情勢は、世界の株価・為替相場、国の格付け、企業の投資判断のタイミングなどに大きな影響を及ぼすからである。最早、北朝鮮を知らなければ国際派バンカー、国際派証券マン、国際金融マンになれないといっても過言でない。

 これは、商社マンとて同じである。例えば米国CIAのアジア部長が定年退職後にコンサルタント会社を立ち上げ、元CIAアジア部長の肩書きを利用して日本の某商社の在米支店を訪ねて「機械を300台、買ってほしい」ともちかけてきた案件があった。その詳細は、以下の通りである。北朝鮮が核実験を実施したので放射能が漏れて日本海に流れてくるが、微量なので健康には問題ない。この放射能漏れの問題がないということを測定して数値化する機械を作ったので買ってほしい。そこで在米支店からの要請にしたがって本社で会議を開いた。会議では、そこに丁度、北朝鮮の専門家がいたこともあり、「購入しない」という判断をした。結果的に、その後そのような製品は世の中に出回ることがなかったことから、事なきを得たということになる。これは、筆者が実際、経験したことである。もし北朝鮮に関する知見がある専門家がいなかったとしたら、日本を代表する総合商社でさえ、このような胡散臭い商談に乗せられていたかもしれない。したがって北朝鮮を知らなければ本当の意味でのグローバルに活躍する商社マンになれないだけでなく、米国に騙されることにもなる。北朝鮮を知らなければ米国に騙されるというエピソードをもう一つ紹介する。日本の某電力会社のワシントン支店長は、米国の大物コンサルタントから「日本は、北朝鮮を脅威に感じているのか」という質問をされ、「日本は、北朝鮮を脅威に感じている」と答えたところ、大物コンサルタントは「日本は、北朝鮮を脅威に感じていない」と断言され、逆切れされたという。その理由としては、「日本が本当に北朝鮮を脅威に感じているならば、北朝鮮から一番近い立地に原発を作る訳がない」というのである。確かに日本は、福井県(高浜・大飯・美浜・敦賀)や新潟県(柏崎刈羽)など日本海側に多くの原発が集中しているだけでなく、原発の総出力が最も高いものが設置されている。某電力会社のワシントン支店長は、このような論法で北朝鮮問題を日本の原発問題にすり替えられた挙句、米国の大物コンサルタントから10億円規模のリスクマネジメントのコンサルタント契約を迫られ、悩んでいた。


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