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2016/08/12

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第43回 アジア・グローバル人材と北朝鮮に関する教養教育⑥                                                    多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

  • 多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

  • 韓国企業と日本企業 第43回 アジア・グローバル人材と北朝鮮に関する教養教育⑥

    北朝鮮経済グローバルフォーラム 2010

◆冷静な北朝鮮専門家・研究者が必要◆

 北朝鮮を4つの経験知の観点から分析し、北朝鮮独特の論理を考察している。前号までは、金日成総合大学経済学部と国家社会科学院での招聘講師「資本主義経済・経営」の経験談、現地で北朝鮮の学者やテクノクラートとの議論内容、通算8回訪問・9カ月間滞在した体験談の3つの経験知からその独特の論理を紹介した。今号は、経験知の4つ目となる韓国・中国・米国・日本の北朝鮮専門家との交流内容である。2010年3月31日ソウルのヒルトンホテルで「北朝鮮経済グローバルフォーラム」が、韓国経済新聞と現代経済研究院の主催、韓国統一部と経済5団体の後援により開催された=写真・上。このような北朝鮮経済に関する大規模なフォーラムは、韓国で初めての試みであった。会場には、経済人や研究者など約200名が出席した。主なテーマは、「デノミ後の北朝鮮経済について」であった。日米中の専門家が基調報告し、韓国の専門家がコメントするという形式で行われた。日本側スピーカーとして筆者が、中国側は北京大学の朱峰教授、米国側は米国外交問題評議会シニア・フェローのスコット・スナイダー氏がそれぞれ基調報告した。コメントは、北朝鮮学会会長(韓国)をはじめとする韓国を代表する北朝鮮専門家が行った。

 他方、これまで国内外の多くの朝鮮半島問題を扱う研究機関と交流を図ると共に北朝鮮専門家と議論を重ねてきた。例えば韓国統一研究院、世宗研究所、韓国銀行、現代経済研究院、LG経済研究院、サムスン経済研究所、慶南大学北朝鮮大学院、東国大学北朝鮮学部、現代韓国朝鮮学会(日本)、日本の韓国・朝鮮に関する研究所、米国マンスフィールド財団理事、韓国国会議員(脱北者・元金日成総合大学教授)、元駐韓日本大使などである。

 しかしこれらの韓国・中国・米国・日本の北朝鮮専門家と議論して気が付いたことが3点ほどある。1つは、北朝鮮専門家であるにも関わらず、その多くが訪朝したことがないため説得力に限界がある。例えば「北朝鮮経済グローバルフォーラム」を前後して控室での待機時や昼食時に中国の朱教授や米国のスナイダー氏が、北朝鮮の経済や平壌の動向について饒舌に話していたが、どこか浮いているように感じた。また、韓国の研究者も北朝鮮研究のレベルは世界トップクラスであるが、現地の話をするとどこか寂しそうな目をしていた。韓国人が北朝鮮を往来する行為は、国家保安法第5条~第9条のいずれかに抵触するため韓国政府の許可なしには訪朝できないようになっている。2つ目は、逆に脱北者の北朝鮮専門家は、北朝鮮に長年住んでいたものの移動や言論の自由がないため多くの地域を見て回ったり、多くの人との議論ができず、見聞した情報量が少ない。また、職場と自宅の周りのことはわかるが、北朝鮮の全体を俯瞰する広範な体系的知識がないため客観的な視点に欠ける。

 3つ目は、世界的な北朝鮮専門家といえども北朝鮮情勢が見極められず、予測も外れるなど北朝鮮分析・研究が思う通りに捗らないため悩んでいる専門家・研究者が少なくない。北朝鮮による核実験実施やミサイル発射など情勢が急変した時は、専門家・研究者同士が電話をかけあって情報交換するが、「北朝鮮は、予測がつかない」ということで意気投合したり、「北朝鮮は、やはり専門家でもわからない」という本音が漏れることが多々ある。


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