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2016/02/19

<オピニオン>転換期の韓国経済 第72回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第72回

◆ベトナムで存在感高まる韓国企業◆

 韓国では「過度な」中国依存の是正が課題となっているなかで、近年ベトナムの存在感が増していることについて前回指摘した。ベトナム向けは増加基調を維持し、15年は前年比24・3%増になった結果、同国が韓国にとって中国、米国、香港につぐ4番目の輸出相手先になった(日本は5番目へ後退)。

 ベトナム向け輸出が増加した背景に、韓国企業による同国への投資が拡大し、現地生産の拡大に伴い韓国から生産財や資本財の輸出が誘発されていることがある。

 韓国の対外直接投資額(韓国輸出入銀行データ)をみると、中国向け直接投資額が減少傾向にあるのに対して、ベトナム向けは安定的に推移し、主要な投資先国になっている。

 このように、韓国にとってベトナムの存在感が増す一方、ベトナムにとっても韓国の存在感が高くなっていることに注意したい。

 一つは、韓国が最大の投資国になっていることである。韓国からの直接投資額は13年、14年と著しく増加した(下図)。ベトナム外国投資庁によると、15年は韓国からの直接投資が件数、金額とも全体の約3割を占めた。2008年に直接投資ブームが生じた時には、韓国からの投資は低水準であった。近年のベトナム向け投資の牽引者はサムスングループであるといっても過言ではない。

 中核会社であるサムスン電子が09年、北部のバクニン省で携帯電話やモバイル端末の生産を開始し、14年にはタイニグン省の第二工場を稼働させた。この間にサムスンSDI、サムスン電機、サムスンディスプレイなどの系列企業やそれ以外のサプライヤーがベトナムでの生産を開始した。

 ベトナムが主力生産基地として選択された理由として、低廉な労働力やベトナム政府の積極的な誘致、韓国との地理的近接さ以外に、①電子部品産業が集積している中国華南地域に隣接していること、②TPP(環太平洋経済連携協定)に参加していること、③15年末にASEAN経済共同体が発足したことなどが指摘できよう。ちなみに、ASEAN域内人口は欧州連合(EU)を上回る6億2000万人で、人口動態面から成長の余地がある。サムスン電子は南部のホーチミン市で建設中の家電複合団地を、ASEAN市場向けの生産基地にする計画である。

 もう一つは、携帯電話がベトナム最大の輸出品目になったことである。サムスン電子の現地生産拡大により、輸出品のトップが14年に縫製品から電話機・同部品に代わった。

 ベトナムでは対米輸出依存度が19・1%(14年)と高く、他のアジア諸国の輸出が中国経済減速の影響によって低迷するなかで、米国向けを中心に底堅く推移している。TPP発効に伴い、同国が米国の輸出生産拠点としての役割を担うものと期待されている。


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