◆サムスン効果◆
前回、前々回に続いて、サムスン電子によるベトナムの生産拡大の影響について考える。
今回はサプライチェーンにどのような変化が生じているのかについて触れる。まず、ベトナムの電話機部分品(HSコード851770)の輸入動向をみると、サムスン電子による携帯電話機の生産開始に伴い増加してきた。輸入の大半は韓国と中国からであり、同社の中国と韓国の工場から半製品がベトナムに輸出されて、最終製品に仕上げられていることがわかる。
現地生産が本格化していく過程で、サムスンSDI、サムスン電機、サムスンディスプレイなどの系列企業がベトナムへ進出した。サムスンSDIは携帯電話機用バッテリー、サムスン電機は部品やカメラモジュールなどを主として生産しており、現地での調達率が上昇しているものと考えられる。
他方、携帯電話機に搭載されるメモリー、プロセッサー、印刷回路・プリント基板の輸入先をみると、韓国や中国に加えて、日本や米国、シンガポールなどが上位に入っている。
では、日本にどのような影響をもたらしているのだろうか。日本の14年、15年のアジア各国向け輸出額(ドル建て)をみると、2年連続でプラスになったのはベトナムとカンボジアのみである。15年の全体に占めるベトナム向けの割合は2・0%であるが、インドネシアやマレーシア向けを上回ったことに注意したい。
ベトナム向けが増加しているのは、①同国が比較的高い成長を続けていること、②とくに輸出が堅調に推移していること、③海外からの直接投資が拡大傾向にあることなどが指摘できる。②と③に関しては、サムスングループが相当程度寄与している。
日本への影響を具体的にみよう。まず、積層セラミックコンデンサーを取り上げる。積層セラミックコンデンサーはセラミックスの誘電体と金属電極を多層化することにより小型・大容量化を図ったチップ型コンデンサーで、携帯電話に多く搭載されている。かつては日本企業が生産をほぼ独占していたが、数年前から韓国企業や中国企業も生産している(一部の日本企業も中国、韓国で生産)。ただし高機能スマートフォンには、日本企業製品が多く使用されている。
近年の輸出動向をみると、日本から韓国への輸出額はやや頭打ちになっているのに対して、ベトナムへの輸出額は増加基調で推移している。ベトナムの積層セラミックコンデンサー輸入額に占める割合(14年)は、日本31・1%、韓国12・7%である。
つぎに、スマートフォンに多く搭載される部品の日本からの輸出額を08年と15年で比較すると、韓国や中国向けなどが総じて減少したのに対して、ベトナム向けは著しく増加したことが明らかになった。
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