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2016/07/22

<オピニオン>転換期の韓国経済 第77回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第77回

◆チャイナショック◆

 現在韓国に、中国の成長減速に伴うチャイナショックのほかに、もう一つのチャイナショックが押し寄せる可能性が生じている。

 この7月、韓国国防省と在韓米軍が共同記者会見でTHAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)の配備を正式に発表した。今回の配備は「北朝鮮の核と大量破壊兵器、弾道ミサイルの脅威から韓国と国民の安全を守り、米韓同盟の軍事力を保護するための防御的措置として決定した」ものであり、「どの第三国を狙うこともなく、北朝鮮の核とミサイルに対してのみ運用される」ものであるが、中国政府はこの決定に強く反発している。このため、韓国の経済界は何らかの「報復措置」を受けるのではないかという懸念を抱いている。

 韓国と中国との間で良好な関係が形成されたのは90年代以降であり、80年代末まで続いた冷戦体制下では両国は敵対的な関係にあった。とくに朝鮮戦争が勃発し、北朝鮮側に中国人民義勇軍が、韓国側に米軍を中心にした国連軍がついたことがその後の両国関係を決定づけたのである。休戦後、米韓相互防衛条約が締結され、韓国は自由主義陣営の前線基地として位置づけられ、在韓米軍は韓国の安全保障において基軸的な役割を担うことになった。米国は韓国に対して安全保障面だけではなく、経済面でも多額の援助を実施した。

 韓国にとって米国は圧倒的に重要な存在となったが、まず冷戦体制の崩壊に伴い、つぎに経済のグローバル化により、その重要度が低下していった。その一方、中国とは国交正常化(92年)を契機に、次第に関係を深め、韓国政府は外交面で中国を重視するようになった。この背景には、中国が経済面だけでなく、安全保障面(北朝鮮をめぐる情勢)でも重要性を増したことがある。

 しかし、中国との関係が深まったことにより、韓国経済が中国経済の変動の影響を強く受けるようになったほか、外交政策においても対米、対中外交の均衡に腐心するという問題を抱えるようになった。

 韓国政府が中国との関係を重視するようになったのは、実利にもとづく判断であるがゆえに「可変的」である。つまり、国際環境の変化によって変わりうるものであり、実際、最近の韓国の外交に変化がみられる。

 第一に、対米関係の強化である。15年に中国主導で設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を表明し、9月の中国の軍事パレードに朴槿惠大統領が参観したことは、米国の懸念(韓国の対中傾斜、日韓関係の悪化)を強めさせ、対米関係を損なう恐れが生じた。その後、韓国政府が日本との関係改善と対米関係の強化に乗り出したのは、それまでの中国傾斜の反動ともいえる。

 第二に、今述べたことと関連するが、韓国が対米関係の強化に乗り出したことに、北朝鮮に対する経済制裁に中国政府がやや消極的であることが影響している。中国は北朝鮮の核保有に反対であるが、経済制裁の強化により北朝鮮の体制が崩壊し、自国に難民が押し寄せて社会が不安定化することを恐れている。北朝鮮も中国が経済関係を大幅に縮小する構えを見せれば、ロシアとの関係を強めるなどして、外交面で揺さぶり始める。


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