◆賃金基準を「人」から「職場」中心へ◆
最近日本では正規職や非正規職という雇用形態に関わらず、同じ仕事なら同じ賃金を支払うべきだという「同一労働同一賃金」の導入に対する論議が加速化している。欧米では一般的であるこの仕組みは、日本では雇用の在り方が違っているために、これまで実現は難しいと言われていた。しかし、安倍首相が今年1月22日の施政方針演説「ニッポン一億総活躍プラン」で「同一労働同一賃金」の実現に踏み込む考えを示したことにより、日本政府は同制度の実現のために本格的な取り組みを始めた。
日本の雇用者に占める非正規雇用労働者の割合は増え続けている。総務省の「労働力調査」によると、日本における非正規雇用労働者の割合は1985年の16・4%から15年には37・5%まで大きく上昇しており、いまや雇用者の3人に1人以上が非正規雇用労働者として働いている。男性の非正規雇用労働者の割合は85年の7・4%から15年に21・9%に、女性のそれは同期間に32・1%から56・3%に上昇しており、女性雇用者の過半数が非正規雇用労働者として働いていることから、労働力の非正規化は女性において顕著であることが読み取れる。
しかしながら、最近30年間における非正規雇用労働者の年平均増減率は、男性が3・6%で女性の2・2%より高く、最近の労働力の非正規化は女性よりも、男性を中心に進んでいることが分かる。長引く景気低迷や経済のグローバル化により、長い間堅く守られてきた男性の「正規職」という壁が崩壊し始めた。つまり、過去には学生や主婦がお小遣いやおかず代を稼ぐ目的でパートやアルバイト等の雇用形態で労働市場に参加するケースが多かったが、最近では世帯の生計を維持する世帯主が正規職の仕事を見つけることができず、非自発的にパートやアルバイト等の非正規職として働いているケースが増えている。
非正規雇用労働者の賃金水準が正規雇用労働者に比べて低いことを考えると、非正規雇用労働者の継続的な増加は家計所得の低下とともに消費を萎縮させ、日本経済の成長を妨げる阻害要因になる恐れがある。これは「企業の業績向上」→「賃上げ」→「個人消費の増加」→「企業の業績向上」という経済の好循環を目指しているアベノミクスに反する結果である。そこで、そもそも同一労働同一賃金に慎重な考えを持っていた安倍首相が一転して、同一賃金実現に向け、強い意欲を示すようになったと考えられる。
では、韓国はどうだろうか。まず、非正規雇用労働者の割合から見てみよう。韓国における非正規雇用労働者の割合は、04年に37・0%でピークに達してから低下し続け、15年現在32・5%まで低下している。国ごとに非正規雇用労働者に対する定義が異なるので、直接比較することは難しいものの、韓国における非正規雇用労働者の割合は日本よりは低く、さらにその割合が継続的に減少傾向にあるという特徴がある。
また、同年における女性の非正規雇用労働者の割合は40・2%で男性の26・5%より高いものの、男女の間の差は日本よりは小さいことが分かる。これは97 年におきたIMF経済危機によって、安定的な長期雇用と良好な労働条件を享受した男性正規雇用労働者も整理解雇の対象となり、 臨時職・日雇い労働者などの非正規雇用労働者に置き換えられたことがその原因である。
しかしながら、韓国における非正規雇用労働者の処遇水準は日本より劣悪な状況である。非正規雇用労働者の平均賃金は正規雇用労働者の5割程度で日本より低く、公的社会保険制度の加入率や法定外福利厚生制度の適用率も日本より低い。さらに、目に見える数値では非正規雇用労働者の割合が減少しているものの、実際は正規職の間に二極化が進んでいる。つまり、非正規職保護法の適用を受けて非正規職から正規職に雇用形態が切り替わった雇用者の中には、賃金などの処遇水準が非正規職として働いていた時と大きく変わらず、既存の正規職の賃金や処遇水準とは大きな差がある名ばかり正規職が発生している。そこで、同一労働同一賃金の実現は日本だけではなく韓国でも今後の重要な政策課題であると言えるだろう。
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