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2016/07/29

<オピニオン>韓国経済講座 第187回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第187回

◆日本型長期不況か?◆

 2016年下半期の景気が沈滞すれば「日本型長期不況」に侵入するかも知れない。韓国銀行が発表した『2016年下半期経済展望』(16年7月)によれば、韓国の今年の経済成長率見通しを従来の2・8%から2・7%に、消費者物価上昇率の見通しを1・2%から1・1%に、それぞれ引き下げた。設備投資も2・1%減と縮小、頼みの輸出も1%を下回る0・9%と減少と予測している。GDP成長率はもともと3・0%としていたものを4月に2・8%に引き下げ、僅か3カ月でさらに0・1%引き下げた。2・7%という見通しは、韓国政府の見通し2・8%に比べると0・1㌽低いものの、民間機関はより厳しく予測しており、韓国開発研究院は2・6%、韓国金融研究院2・6%、LG経済研究院2・5%、現代経済研究院2・5%と政府機関の客観的予測の甘さが目立つ格好だ。

 しかし市場はさらに深刻に受け止めている。現代経済研究院の報告書『2016年の投資環境展望と示唆点』によると、「韓国経済が日本型長期不況に入る可能性はあるか」という質問に「一定部分ある」という回答が73・6%、「相当ある」は20・8%を記録した。これらを合わせると94・4%となり、すべての韓国企業が日本型長期不況をそれなりに覚悟していると理解できよう。

 ある研究によると、長期不況の典型的な特徴として次の事項を挙げている。①貿易収支額が黒字でありながらも消費と投資マインドの冷え込み、②不動産の投機抑制策による建設景気の落ち込み、③消費低迷の長期化傾向と製造業の空洞化現象、④低金利の中での景気低迷とマクロ経済政策の効き目のなさなどである。これらの項目を近年の韓国経済に当てはめるとほとんどが多かれ少なかれ当てはまる。貿易黒字は18カ月連続で減少しているが黒字を維持しているものの、表に示されるように民間消費低迷、設備投資不調が明らかである。政策金利の引き下げなどにもかかわらず不動産投資の不調と建設投資低迷が顕著である。消費の低迷は、すでに固定化しており、大企業の海外投資増大と対内投資低迷で空洞化現象が促進されてきた。さらに金融通貨委員会が6月に政策金利を1・50%から1・25%に引き下げて、限界的な低金利になっている。そしてマクロ経済政策の効き目のなさ、これは政策実施においては政府が法案を上程し可決して実施されるが、4月の総選挙で与党「セヌリ党」は少数与党に転落した。韓国では、「国会先進法」によって与野党対立の重要法案成立には5分の3の賛成が必要であり、少数与党へ転落した朴政権は、重要法案の成立はまったく目途が立たってない状態だ。朴政権がこだわった派遣法案、勤労基準法案、産業災害補償保険法案、雇用保険法案など労働4法案とサービス基本法案などは、国会上程もできずに自動廃案になった。

 こうしてみると、韓国経済が「日本型長期不況」へと向かっていることは否定できないかも知れない。先の調査を引き合いに出すまでもなく市場の目は厳しく「ホボホボ」事実を映している。

 もう一つ厳しい点を追加すると、先に韓国経済新聞と現代経済研究院が共同調査した「第18回韓経・HRI経済幸福指数」によると、回答者の56・2%が「下半期の経済は上半期より厳しくなる」と答え、「ほぼ同じ」という回答は39・7%で、「よくなる」という回答は4・1%にすぎなかったと報道された。


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