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2017/02/10

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第16回 人事管理システムに人工知能の有効活用を                                                  ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆信頼性向上や優秀人材の確保に効果的◆

 最近、マスコミ等により「人工知能」という言葉をよく耳にする。人工知能の英語表記は 「Artificial Intelligence」で、通常は略してAIと言われており、ビッグデータの普及やIT技術の発展により、今後多様な分野での活用が期待されている。人工知能(AI)はコンピューターがより進化したものであり、単に計算速度が速くなっただけではなく、ディープラーニング(深層学習)機能が追加され、AI自らが問題を造りだし、AI自らがその答えを導く。つまり、AIは、既存のコンピューターに人間の領域であった思考や学習能力を追加し、自らが事物を認識し、蓄積された知識と経験に基づいて問題を解決する能力を持ついわゆる「考える機械」であると言える。

 昨年、AIの凄さを世の中の人々に再認識させた出来事があった。それは、グーグルが開発した囲碁のAI「アルファ碁」と韓国が誇る世界トップクラスのプロ棋士、李世乭九段との対決であった。多くの人々が李世乭九段の勝利を確信・期待していたものの、結果は予想とは異なってアルファ碁の勝利で終わった。さらに、4勝1敗の完勝であった。まさか!と思ったことが現実の世界で起きたことに対して、今後まかり間違えば人間がAIに支配されると恐れを感じた人も少なくないだろう。

 米ネット通販最大手のアマゾンは、2017年初頭からセンサーや深層学習などのAI技術を活用し、レジを通さずに買い物ができるコンビニエンスストア「アマゾン・ゴー」をオープンすると発表した。店を利用するためにはアマゾンへの会員加入や専用アプリのダウンロードが必要である。利用者が棚から取った商品はセンサー等によりAIに認識され、店を出る時に、事前に登録したクレジットカードに課金されるシステムである。レジに並ぶ必要がなく、無駄な時間を節約できるというメリットがある。しかしながら、アマゾン・ゴーのようなAI型ストアが普及されると、レジ係の仕事はなくなる可能性が高く、その分雇用が減ってしまう。現在、アメリカで約350万人がレジ係の仕事をしていることを考えるとその波及効果は大きいと考えられる。AIによる第4次産業革命は労働市場の変化と革新を要求していると言えるだろう。

 将来、労働力人口の減少が予想される中で、最近では優秀な人材を採用しより効率的に活用するために、人事管理にAIを利用する事例も増加している。特にIT技術とAIを利用して、業務を改善する「HR Tech」が注目を浴びている。HR Techとは、HR(Human Resource)とTechnologyを合成した新造語で、ビッグデータの解釈やAI等のIT関連技術を利用して、採用、評価、配置等の人事関連業務を実施する手法である。既存の人事管理は、人事担当者の経験及び主観的判断により採用、評価、配置が行われており、担当者により結果が異なることが問題点として指摘されてきた。HR Techを利用すると、AIがデータベース化された過去の採用応募者や社員の情報を学習し、より客観的な結果が出るだろうと期待されている。

 日本でも人工知能を人事管理に活用している企業が増加している。大阪に本部がある未来セルフは、16年春にAIを利用した就業支援マッチングシステム「mITsucari」を導入した。就業を希望する学生や企業がそれぞれ回答した調査票をAIを用いて対照し、学生により適切な企業を紹介するシステムである。また、スタートアップ企業i―plugが提供している、AIを利用した就職支援サービス「OfferBox」の登録数も継続的に増加している。OfferBoxは、就業を希望する学生がスマートフォン等を利用して写真、プロフィール、動画等を交じえて自己紹介し興味ある業界や職種などについて書き込むとそれを読んだ企業の担当者が、連絡をする仕組みである。ここでAIを活用して企業の関心度が高い(プロフィール等の閲覧時間が長い学生を企業の関心度が高いと判断)学生のプロフィール等が採用担当者に優先的に提供される。企業が学生側に直接働きかけることで、事業に対する学生の理解が深まり、より適合した人材が採用できるという利点がある。人事領域のデータを横断的に管理できるプラットフォーム「jinjer」への反響も大きく、


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