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2017/03/10

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第17回 若者の貧困が重大な社会問題として浮上                                                  ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆労働市場改革やセーフティーネットの整備を◆

 今、韓国では「若者の貧困」が重大な社会問題として浮上している。韓国は公的年金が給付面において成熟していないことなどが原因で高齢者の貧困率が48・8%(2014年、OECD平均は12・1%)と高く、今まで若者の貧困はあまり注目されていなかった。韓国における若者の貧困率は2014年現在9・0%でOECD平均13・9%を下回っており、数値上ではまだ大きな問題ではないように見える。しかしながら、韓国保健社会研究院の最近の調査によると、一人暮らしの若者の貧困率は21・2%で全若者の貧困率を大きく上回り、若者の37・1%が「働く貧困」や「不安定雇用」を経験していたことが明らかになった。また、パネルデータの分析からは若者の貧困が固定化されているという結果が出た。問題は今後若者の貧困がさらに拡大する恐れがあることである。つまり、今年から3年間、史上最大規模の大卒者が排出されることが予想されているのに対し、企業は国内の政治的な混乱等先行きの不透明感から新規採用を縮小しようとしている。アジア経済危機以降の過去最悪の就職氷河期が到来する可能性が高く、若者の多くが失業や不安定雇用によって貧困線以下に陥ってしまう恐れが高まっている。

 統計上から見た韓国の失業率は16年第1四半期に3・3%でOECD平均6・5%の半分ぐらいであり、若者(15歳~24歳)の失業率も10・9%で、OECD平均17・3%を大きく下回っている。しかしながら統計上の数値とは異なり、実際は若者の多くが失業状態にあり、非正規雇用などの不安定雇用も拡大している。つまり、韓国における統計上の失業率は現状をうまく反映していると言えないだろう。では、なぜ韓国の失業率は実際より低く現れているだろうか。その理由としては、①非労働力人口の割合が高いことと、②自営業者の割合が高いことが挙げられる。

 非労働力人口には、職場からリタイアした高齢者、専業主婦、学生などが含まれており、彼らは仕事をしていないだけでなく求職活動もしていない。つまり、多くの若者が労働市場に自分の希望に合う仕事や求人がないと思い仕事探しを諦めており、その結果失業率が実際より低く表れている。16 年の韓国の15~64歳の非労働力人口の割合は 31・3%で、日本の23・1%を大きく上回っている。非労働力人口の中にはニートも多く含まれている。13年における韓国のニート率(15~29 歳の若者のうち、働いておらず、教育や訓練も受けていない者の割合)は18・1%でOECD平均14・6%より高く、日本の10・1%を大きく上回っている。15年時点で韓国よりニート率が高い国は、チリ、メキシコ、スペイン、ギリシャ、イタリア、トルコのみである。韓国におけるニートの特徴は「非求職型」ニートが多いことである。OECDはニートを大きく「失業型」と「非求職型」に区分しているが、韓国の場合、「非求職型」ニートの割合が全ニートの84%で、OECD平均(59%)や日本(64%)より高い。このように韓国における「非求職型」ニートの割合が高い理由としては、より安定的で処遇水準が高い職場に就職するために長い期間、国家試験などを準備するための塾などの非公式的な教育システムに留まっていることが挙げられる。

 また、13年における韓国の自営業者の割合は27・4%で、日本の11・5%より2倍以上高いという結果が出ている。特に、韓国には零細自営業者が多く、家族従業者の多数は無給で働いている。彼らの多くは、調査期間中に仕事を探していないので、失業率の計算には反映されていない。その結果、失業率が実際より低く表れている可能性が高い。

 若者の貧困を防ぐためにはより安定的な雇用環境を構築する必要があるが、韓国における若者をめぐった雇用状況はあまりよくないのが現実である。韓国における14年の20~24歳や25歳~29歳の就職率は、それぞれ44・8%や69・1%で日本(64・6%と82・1%)、米国(62・9%と74・7%)、カナダ(68・5%と78・5%)、英国(66・6%と78・6%)、豪州(70・2%と77・7%)と大きな差を見せている。

 就職を希望する若者は就職がなかなか決まらないと焦ってしまい、希望や専攻とは全く関係がない職に就くか、あるいは非正規職として労働市場に参加するケースも少なくない。韓国における非正規労働者の割合は03年の37・0%から16年には32・8%まで減少した。


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