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2017/07/07

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第21回 文在寅大統領の中小企業関連政策を語る                                                      ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

  • 曲がり角の韓国経済 第21回 文在寅大統領の中小企業関連政策を語る

◆大企業との公正な取引の定着を◆

 今回は文在寅大統領の選挙公約の中で中小企業関連政策について論じたい。韓国における中小企業(全産業)は、常時雇用する従業員の数が1人以上300人未満(製造業は5人以上300人未満)で定義され、2014年時点で、全事業所数の99・9%(製造業は99・8%)を占めており、中小企業で働く雇用者は全雇用者の87・9%(製造業は81・3%)に至っている。さらに、09年から14年の間の事業所や雇用者の増加分のうち、中小企業の増加分が占める(影響を与える)割合、いわゆる寄与率はそれぞれ99・96%や88・78%になっている。これは、起業のほぼすべてが、また雇用の9割弱が中小企業に基づいていることを意味する。しかしながら14年現在の生産額やGDPの中で中小企業が占める割合は、製造業の場合、それぞれ48・3%、51・2%で、09年の47・6%、52・4%と大きく変わっておらず、上記で説明した事業所数や従業員数の数値と比べると、その低さが分かる。このような結果は、大企業と中小企業の間の格差を残存させる原因にもなっている。

 統計庁が16年に発表した「韓国の社会動向」によると、従業員数300人未満の中小企業の賃金水準は、従業員数300人以上の大企業の39・3~76・4%に留まっている。また、中小企業中央会の調査では従業員の平均賃金(1カ月、15年基準)は、大企業が485万㌆で中小企業の294万㌆を大きく上回っていると説明している。さらに、公的社会保険の加入率も従業員数1~9人の小企業は40・8%で、大企業の95・0%を大きく下回っている。このような処遇水準の格差は、大企業への労働力集中を招き、多くの中小企業が人手不足に悩むという結果をもたらした。

 文大統領はこのような問題を解決するために、今年4月に中小企業関連の選挙公約を発表し、既存の大企業中心の成長戦略を廃棄し、雇用が創出される成長、労働者の賃金が上がる成長、富の公正な分配を可能にする社会を作るためには、何よりも中小企業の育成が重要であると強調した。公約の主な内容としては、中小ベンチャー企業部の新設、乙支路委員会の運営、追加雇用制度の新設等が挙げられる。

 文大統領は、大統領選挙中に中小企業とベンチャー企業だけではなく、小商工人政策まで総括し、第4次産業革命を牽引しなければならないとして中小ベンチャー企業部の新設を強調してきた。今後中小ベンチャー企業部が新設されると、韓国の政府組織は、既存の17部・5処・16庁・5室から18部5処17庁4室に改編される。6月に発表された政府組織改編案によると、中小ベンチャー企業部は長官と次官の下に企画調整室、中小企業政策室、創業ベンチャー革新室の3室と小商工人政策局で組織される可能性が高い。未来創造科学部からは創造経済業務を、産業通商資源部からは産業人材、地域産業、企業協力業務を、金融委員会からは技術保証基金管理機能を譲り受けることにより組織が大きくなる。

 このような拡大された中小ベンチャー企業部の活動を支援するのが乙支路委員会になるだろう。乙支路委員会は、「『甲』から『乙』を守る経済民主化推進委員会」の通称で、13年5月に「共に民主党」の党内に設けられていた組織である。今後、乙支路委員会が国の組織に編入されると、検察、警察、国税庁、監査院、新設された中小ベンチャー企業部とともに、大企業の納品単価の値下げの圧力や不公正な内部取引等財閥の横暴を徹底的に調査することになる。ただし、政策の成果を高めるためには、部処間の情報提供や役割分担を緻密に行う必要がある。また、中小ベンチャー企業部が


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