◆各国は対話と圧力の外交展開を◆
北朝鮮は、7月4日と28日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を2度も強行した。この北朝鮮のICBM発射実験に対し、米国と韓国が8月中旬から下旬にかけて合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」を実施。これは、韓半島有事に備える韓国軍と米軍の年次合同軍事演習であり、韓国軍が主導しそれを米軍が支援する形で行われており、原子力空母2隻と米韓軍約8万人を投入。乙支とは、高句麗(紀元前37年~668年)の将軍である乙支文徳にちなむ。また、国連安全保障理事会が、17年8月に経済制裁を一段と強化する制裁決議第2371号を全会一致で採択した。これにより北朝鮮の輸出総額(2016年度28億㌦)の3割~5割に相当する約10億㌦~15億㌦が削減される経済制裁効果があると予測されている。
北朝鮮の暴走は、止まるところを知らず、米朝間の応酬もエスカレートしており、これは「言葉の戦争」とも呼ばれている。また、北朝鮮に対して軍事行動に踏み切る基準である「レッドライン」はもはや、超えたと言っても過言でない。換言すればこれまでの「レッドライン」は超えて、未知の「レッドゾーン」を双方が形成し、暗中模索していると言える。果たしてこの「レッドゾーン」は、平和に導くものとなるであろうか、各国のリーダーの知恵、見識、外交手腕などが試されている。一方、国際世論は、各国のリーダーの資質を鋭く見極めている。
北朝鮮は、国連安保理が制裁決議第2371号を採択したことに対して反発する声明を発表した。また、北朝鮮軍は、中距離弾道ミサイル「火星12」4発を米領グアム島沖に打ち込む「グアム包囲射撃計画」を発表し、金絡謙戦略軍司令官が「ミサイルは島根県、広島県、高知県の上空を通過し、グアム島周辺30~40㌔の水域に着弾する」と述べた。この警告を受け日本は、地上配備型迎撃ミサイル「PAC3」を中四国地方の計4カ所(出雲、広島海田、高知、松山)の陸上自衛隊の駐屯地に、海上配備型迎撃ミサイル「SM3」を搭載したイージス型護衛艦1隻を日本海に展開する方針を固めた。
米国では、軍事力行使を示唆する発言が飛び交うようになり、「金正恩政権の崩壊」という踏み込んだ表現も初めて出た。トランプ大統領が「これ以上、米国への威嚇行為を行わないことが北朝鮮にとっての最善策だ。世界が見たことがない炎と怒りを受けることになる」「北朝鮮が無分別な行動をするなら、軍事的解決の準備は万端整っており、臨戦態勢だ。金正恩が別の道を見い出すと良いのだが」「北朝鮮が、グアムや米国の領土、同盟国に対して何かすれば、金正恩は、本当に後悔することになる。すぐに後悔するだろう」と述べた。ただ、トランプ大統領が、北朝鮮に強硬姿勢を取る一方、米国政府が緊張緩和に向けた外交努力も続けている。米国のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表と北朝鮮のパク・ソンイル国連代表部高官が水面下で接触しており、米朝関係全般や北朝鮮で拘束されている米国人3名の解放問題について協議が行われている。8月17日時点では、金正恩委員長が、「米国の行動をもう少し見守る」と発言しており、「グアム包囲射撃計画」が一時的に鎮静化している。
暴走する北朝鮮と緊張する米朝関係に対して国際世論は、冷静である。また、世界各国の対応も米朝に自制を求めており、沈静化に動いている。米国では、CNNの世論調査(8月8日発表)によると米軍の北朝鮮への軍事行動について、「支持」が50%と高いものの「反対」も43%に上った。また、エドワード・マーキー上院議員(民主党)が「制御不能になるまでエスカレートしかねない」と警鐘を鳴らし、トランプ大統領の核能力誇示に対して「今週は日本で炸裂した長崎(8月9日)と広島(8月6日)の原爆の日だ。我々は歴史から学ぶべきで、地球上で2度と核兵器を使うべきでない」と戒めた。さらに、8月10日に米国議会の民主党議員約60名が連名でティラーソン国務長官に書簡「トランプ大統領の発言は北朝鮮との緊張をあおり核戦争の不安を高めた」を送り、トランプ大統領の北朝鮮への強硬な発言を自制させるよう求めた。この3カ月前である17年5月にも53年7月27日に締結された韓国戦争休戦協定64周年を象徴するため民主党議員64名が、トランプ大統領に北朝鮮に対する先制攻撃に反対するとして直接対話を求める書簡を発表した。特に議員たちは、
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