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2017/09/15

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第56回 ビジネス教養のための韓半島問題⑬                                                    多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

  • 多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部および大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆北東アジアにおける地域冷戦に◆

 北朝鮮が、またしても8月29日に中距離弾道ミサイル「火星12」を日本海に向けて発射し、9月3日には6回目の核実験を断行した。2011年12月17日に金正日総書記が死去すると共に金正恩政権が誕生して以来5年9カ月間で、ミサイル発射回数は80回に及ぶ。8月29日に平壌市の順安空港付近から発射した中距離弾道ミサイルは、日本の上空を通過し、太平洋上に落下した。飛行距離は約2700㌔、飛行時間は29分と推定される。北朝鮮のミサイルが日本の上空を通過するのは、1998年8月の「テポドン1号」以来、6回目となる。因みに1回目と2回目は09年、3回目は12年、4回目は16年である。朝鮮中央通信は、「金正恩党委員長が現地で指導する中、中距離弾道ミサイルの火星12が発射され、予定された軌道に沿って北海道の渡島半島と襟裳岬上空を横切って通過し、北太平洋の海上に設定された目標水域に命中着弾した」「米韓合同軍事演習への対抗措置であり、米国領グアムをけん制する前奏曲となる」と伝えた。

 これらの朝鮮中央通信の報道内容や金正恩党委員長の発言などを分析して考えられる北朝鮮の狙いは、以下の通り。①米韓軍事演習を牽制して米韓を威嚇すること②米国領グアム周辺に4発同時発射を計画している「火星12」の命中率や戦闘的性能の高さを誇示すること③8月29日は、日本が韓国を併合した日であり、107年目にあたることから日本も威嚇する狙いがあった。実際、朝鮮中央通信は、「金正恩党委員長が、恥ずべき韓国併合条約から107年にあたる29日に日本人を驚愕させる大胆な作戦を立て、発射を承認した」と伝えている。韓国併合とは、1910年8月29日に「韓国併合ニ関スル条約に基づいて大日本帝国が大韓帝国を併合した事実」を指す。

 8月29日の北朝鮮のミサイル発射に対して国連安全保障理事会は、その日のうちに国連本部で緊急会合を開催し、「北朝鮮によるミサイル発射を非難し、北朝鮮にミサイル開発計画の中止を求める議長声明」を出した。この声明は、中国とロシアを含む安保理理事国15カ国により全会一致で採択された。安保理理事国がこのように素早く結束し、声明を出すことは、異例であり、北朝鮮に対するこれまでにない強い非難の表れである。米国のヘイリー国連大使は、「世界は、結束した」と述べ、北朝鮮を強く牽制している。日本と韓国は、8月30日に安倍首相と文在寅大統領が電話で協議し、「さらに強い決議が必要である」「北朝鮮の挑発は暴挙だ。日韓の緊密な連携の必要性がさらに高まった」との認識で一致した。また、文大統領が、安保理の議長声明に関し、「韓日米の協力の成果」と評価した。

 しかしながら中国とロシアが、やっと腹を据えて北朝鮮に対する経済制裁や外交的圧力を加えると思いきや国際政治はそう簡単なものではない。日経新聞8月30日付を要約すれば、ロシアは、米韓軍事演習が北朝鮮ミサイル発射の一因との見方を示しており、北朝鮮への制裁を重視する米国の強硬路線が行き詰まっていると主張している。また、北朝鮮の核・ミサイル問題よりも、米国の軍事プレゼンスの拡大の方が大きな脅威であると考えている。この米国の軍事プレゼンスの拡大に対しては、中国と共に米国と交渉する方針を示している。ロシア科学アカデミーアジア戦略センターのゲオルギー・トロラヤ所長は、「ロシアは、中国と共に北朝鮮の核・ミサイル開発の停止と米韓軍事演習の中止を柱とした収拾案を提示し、外交努力を加速するだろう」と述べている。

 6回目の核実験は、9月3日に朝鮮中央テレビが、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)装着用の水素爆弾の実験で完全に成功した」とする北朝鮮核兵器研究所の声明を伝えた。また、金正恩党委員長が、「水爆の全ての構成要素が100%国産化された」とし、「我々は今後、強力な核兵器を決心した通りに生産できるようになった」と述べた。

 6回目の核実験に対して日本は、


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