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2017/03/24

<オピニオン>転換期の韓国経済 第85回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第85回

◆韓国が直面するG2リスク◆

 今後の韓国経済を左右するリスク要因として、家計債務や次期政権での政策転換などの国内リスク要因のほかに、国外リスク要因が登場している。トランプ政権の通商政策とTHAAD(米軍の最新鋭迎撃システム)配備決定後の中国の経済報復である。

 トランプ政権の下で、米国の通商政策が国益を優先した二国間主義へ向かい出した。トランプ大統領は1月23日にTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱するための大統領令に署名したほか、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を開始すると表明した。そして3月上旬に、新しい通商政策がUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)から2017年通商白書アジェンダ として発表された。

 大統領当選後、韓米FTAについての言及がなかったこと、1月にマティス国防長官が来韓した際に、韓米同盟の重要性が再確認されたことなどから、韓国に対して通商面でさほど強硬な姿勢をみせないのではないかという期待が生まれた。

 しかし、その期待を打ち消すかのように、17年通商白書アジェンダでは、韓米FTAに関し、11年から16年の間に米国の韓国への輸出額が12億㌦減少した一方、輸入額は130億㌦増え、これは米国国民がこの協定から期待した成果ではないと記された。

 保護主義の広がりを警戒する一方、トランプ政権が掲げる「米国での生産、米国人の雇用」への対応が企業に求められている。現代自動車グループは1月中旬、今後5年間に米国で、エコカー、自動走行車など次世代自動車の新技術開発に関する研究開発投資、既存工場での新車種の生産、環境改善などの分野で31億㌦の投資を行うことを発表した。また、サムスン電子も米国における家電製品の生産を検討し出した。

 こうしたなかで、LG電子はテネシー州に洗濯機(ドラム式と水流式)工場を新設することを決定し、2月末にテネシー州政府と工場新設に関する覚書を交わした。総投資金額は約2・5億㌦で、19年第2四半期から生産する計画(年間100万台)である。

 最近の動きをみると、米国での現地生産の動きが広がることが予想される。今後の注目点は現代自動車グループの動きである。韓国側の統計(通関ベース)によれば、16年の韓国の対米貿易黒字額は232・5億㌦であり、自動車分野だけで197・1億㌦の黒字を計上した。米国側の統計でも、自動車分野の赤字相手国として、韓国はメキシコ、カナダ、日本、ドイツについで多い。

 このため今後の二国間交渉の場で、米国政府が韓国に、自動車分野での現地生産の拡大、輸入拡大、非関税障壁の撤廃などを強く求めてくる可能性がある。

 もう一つのリスク要因として、THAAD配備決定後の中国による経済報復がある。中国政府は自国の安全保障を害するとの理由で、韓国政府にTHAAD配備の中止を迫るとともに、中国での韓流(コンサート、ドラマ、映画などのコンテンツ)の制限や食品、化粧品に対する通関不許可(規制強化や新たな品質規定の設定などによる)などの事実上の経済報復に乗り出した。


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