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2017/06/23

<オピニオン>転換期の韓国経済 第88回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第88回

◆無理がある最低賃金の引き上げ目標◆

 文在寅大統領は雇用創出を最優先課題とし、就任直後に、大統領直属の雇用委員会を設置した。6月1日に、「イルチャリ100日計画」が発表された。100日以内に現在の行政システムと税制などを見直して、これらを雇用創出に適合的なものへ再設計するとともに、成長―雇用―分配の好循環をつくり出す狙いである。政府措置だけで実施可能な課題はスピード感をもって推進する一方、法改正や財源が必要な中長的な課題に関しては、今後5年のロードマップを作成していく計画である。

 雇用創出に向けて動き出したことは評価できるが、新政権の経済政策には再検討すべきものが少なくない。そのなかの一つに、公共部門が雇用創出の役割を担うことがある。この点は前回取り上げたので、今回は最低賃金引き上げについて触れたい。

 政府は最低賃金を2020年までに1万㌆へ引き上げる計画である。低賃金労働の解消を図るとともに、所得の増加によって消費を増やし、成長につなげる狙いといえる。

 問題の一つは、引き上げペースが速いことである。近年最低賃金の上昇ペースが加速してきたとはいえ、伸び率は10%を下回る。17年は前年比7・3%増の6470㌆である。2020年に1万㌆にするためには、18年以降年平均15・6%の引き上げが必要となる(上図)。

 かなりのハイペースであり、民間企業と公共部門にとって、相当の負担になることは間違いない。とくに公共部門は雇用創出の役割も担っていくので、財政悪化の要因になりかねない。

 他方、2020年までと明示したため、実現できなければ、政府への批判が一気に出てくる。

 最低賃金は毎年の経済環境(就労状況、物価動向、生活保護の給付水準など)を考慮して決定されるものであり、将来の水準を現時点で決定するものではない。

 しかも、生産性の上昇なしに最低賃金が大幅に引き上げられれば、機械による労働代替や海外生産シフトなどを加速させ、逆に雇用を減少させることにもなる。

 もう一つの問題は、最低賃金の引き上げが必ずしも貧困解消に結びつかないことである。

 上述した、雇用の減少につながる恐れがあること以外に、低賃金労働者と貧困世帯とが乖離していることがある。

 韓国でも最近、KDI(韓国開発研究院)の尹喜淑氏がこの点を問題提起した。低賃金労働者のなかに中所得世帯以上の人(主婦、学生など)が多く含まれている一方、社会の最脆弱層にとっては雇用そのものがないことが問題であるため、貧困対策としては、最低賃金の引き上げよりも、低所得層を支援する雇用政策が効果的であると主張する。

 韓国では格差や貧困が問題になっているが、世界的にみると、格差が著しく大きいわけでは決してない。例えば、OECD統計によれば、ジニ係数の高い国はチリ、メキシコ、米国などであり、低い国はアイスランド、ノルウェー、デンマークである。韓国は日本よりも低く、平均を若干下回っている。


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