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2017/10/27

<オピニオン>韓国経済講座 第199回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第199回

◆日本型不況へ進むのか?◆

 ずいぶん前から懸念されていることだ。2017年10月19日韓国銀行は、今年の国内総生産(GDP)成長率見通しを、4月に0・1㌽引き上げ2・6%、7月に2・8%の引き上げに引き続き、今回3・0%に引き上げると明らかにした。先進国の株価好調による世界景気の順調さ、輸出の良好及び財政支出拡大による国内景気の回復を見込んでのことであるという。こうした状況になるといつも長期不況への懸念は消えてしまう。

 そんな中、17年1月にIMFが「韓国が直面した課題―日本の経験から学ぶ教訓」という報告書を発表し、「韓国は高齢化の速度が速いだけでなく、構造的な問題で生産性が落ちている」とし、「20年前の日本と非常に似ている」と、韓国が20年以上の時差を置いて、日本と同じ過ちを繰り返そうとしていると指摘した、と報道された。重要な点は、韓国銀行が成長率を挙げた根拠である対外的理由ではなく、「構造的な問題」として捉えられていることである。

 17年10月、産業研究院は文在寅政府が推進する「革新成長戦略」において持続的成長のため生産性の向上を提唱した、と報道された。つまり、10年以来、労働生産性の成長率が鈍化し、持続的発展の妨げとなっており、貧富の格差の解消や雇用率の向上を図る一方で、生産性を高めるための工夫が必要だということだ(掲載図参照)。韓国の労働生産性の低さは指摘されて久しい。16年のOECD統計によると15年基準で、就業1時間当たりの韓国の労働生産性は加盟国35カ国中30位であり、日本は20位となっている。

 韓国の報道では、この順位の低さがいつも取り上げられ問題視されているが、問題は労働生産性の値(付加価値金額)である。20位の日本の就業1時間当たり労働生産性は42・1㌦(4439円)、30位の韓国は31・9㌦(3364円)で、なんとこの順位は、韓国の労働者1人の付加価値が1時間で日本より1075円も低いということを表しているのだ。

 経済学で考える生産性は投入量と産出量の比率(労働生産性=付加価値額/労働投入量)であり、労働者もしくは労働時間一単位が生み出す生産量か、生産金額で表す。韓国の労働生産性が日本より時間当たりで約1000円の差があると見ると、その分付加価値生産が低くそのことが所得に反映されたり、ひいては低雇用ともなる。

 掲載図に見られるように10年代以降韓国の労働生産性は低迷が続いており、改善の兆しが見られていない。このままの状態で推移するとすれば日本との格差が開くということよりも、中長期的により深刻になることが予想される。すなわち、韓国の少子高齢化、とりわけ高齢化が急速に進んでおり、労働人口が扶養人口に入れ替わり社会的負担が急速に増大することになる。労働者の減少に労働生産性上昇の速度が見合わなければ、現在の二極化はますます進むことになろう。

 例えば、高齢者一人を支える現役世代の数(15~64歳人口/65歳以上人口)の推計推移を見るとそのことがよく分かる。つまり、この数値が小さくなることは現役世代の負担が増加することを意味するからである。韓国は日本より現役世代の減少幅が大きく、高齢者一人を支える現役世代の数は1960年の20・5人、70年19・7人、00年9・9人、15年5・6人、20年には4・5人、30年2・6人、40年1・8人、50年1・4人、60年1・2人まで急速に低下している。日本が20年で2・0人と予測されており、


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