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2018/06/15

<オピニオン>転換期の韓国経済 第100回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第100回

◆対越関係で注意したいリスク◆

 前回、民間の経済活動ならびに韓国政府による経済援助を通じて、韓国とベトナムとの経済関係が拡大してきたことを指摘した。両国の関係の深まりは、韓国に在留するベトナム人の増加からも確認できる。統計庁が2017年末に発表した「2017年移民者の在留実態及び雇用の調査結果」によれば、国籍別の就業者(帰化した者は除く)は、韓国系中国人(36・5万人)、ベトナム人(6・6万人)、中国人(5・0万人)で、単純労働(E―9の在留資格)従事者の内訳は、ベトナム人(14・5%)、カンボジア人(13・2%)、インドネシア(11・4%)で、ベトナム人が最多である。

 このように韓国とベトナムとの経済関係が深まるなかで、以下に指摘するようなリスクへの対策が必要であると考える。

 第1は、ベトナムと米国間との通商摩擦である。ベトナムは米国の貿易赤字相手国(17年)として、中国、メキシコ、日本、ドイツにつぐ5番目で、韓国よりも上位にあることに注意したい(上図)。

 韓国の場合、韓米FTAの発効(12年3月)後に貿易不均衡が急拡大し、これがトランプ政権下での再交渉につながった。ただし、対米自動車輸出の低迷などにより、赤字額は16年、17年に減少している。他方、ベトナムの場合、近年一貫して不均衡が拡大しているため、近い将来、その是正を求められる可能性がある。すでに、その前兆がみられる。17年5月、ベトナムのフック首相が訪米した際、ライトハイザー米通商代表部代表が、米国の貿易赤字が急拡大していることに対し懸念を示した。こうしたなかで、フック首相は米国からの輸入拡大を約束することになった。

 韓国企業はベトナムを、米国を含むグローバル市場向け生産拠点と、ベトナムを含むASEAN市場向け生産拠点として活用している。ベトナムと米国間で貿易不均衡が問題になる可能性があることを考えれば、予防的に、対米輸出依存度を低下させていくことが課題となろう。

 第2は、韓国企業のベトナム集中に伴うリスクである。これには、ベトナムにおける事業環境の悪化リスクと韓国企業のプレゼンス増大に起因するリスクがある。

 韓国企業によるベトナムへの直接投資が増加した一因に、中国での事業環境の変化(生産コストの上昇や競争の激化)に加えて、過度な中国依存に伴うリスクを回避する必要が生じたことがある。ベトナムでも程度の差こそあれ、同様なことが生じる可能性がある。実際、大企業の進出に伴い優秀な人材をめぐる争奪が激しくなっており、賃金の上昇を招いている。今後、現地の高等教育機関への支援を通じて、人材供給を増やすことにも注力する必要がある。

 また、韓国企業のプレゼンス増大に起因


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