◆「夕方のある暮らし」は実現できるのか?◆
韓国では、残業時間を含めた1週間の労働時間の上限を従来の68時間から52時間に制限することを柱とする改正勤労基準法(日本の労働基準法に当たる)が7月1日から施行された。労働時間の上限が適用されるのは、従業員数300人以上の企業や国家機関・公共機関で、違反した事業主には2年以下の懲役または2000万㌆以下の罰金が科される。ただし、施行から半年間は試行期間とし、罰則が猶予される。「週52時間勤務」は、2021年までに中小企業にも段階的(50人以上~300人未満の事業場は20年1月まで、5人以上~50人未満の事業場は21年7月まで)に拡大・適用される。
これまでも、残業時間を含む1週間の最大労働時間は、勤労基準法の規定上は52時間であったが、「法定労働時間」を超える労働、すなわち「延長勤務」に「休日勤務」は含まれないと雇用労働部が解釈したため、労働者は1週間の法定労働時間40時間に労使協議による1週間の最大延長勤務12時間、そして休日勤務16時間を合わせた合計68時間まで働くことが許容されてきた。
しかしながら、今回の改正では休日勤務は延長勤務に含まれると行政解釈をしており、1週間の最大労働時間を52時間にする「週52時間勤務制」が実施されることになった。休日勤務手当は変更されず、8時間以下分に対しては50%の加算が、8時間超過分に対しては100%の加算が適用される。
また、法定労働時間の例外適用が認められていた「特別業種」が存在していたが、労働界は今まで特例業種の認定は無制限労働をもたらすと、全面廃止を要求してきており、改正法では法定労働時間の例外適用が認められていた特例業種を従前の26業種から5業種に縮小した。
今回の措置は、労働界の要求をある程度受け入れたもので、与党と野党の合意の末、特例業種を陸上運送業、水上運送業、航空運送業、その他の運送関連サービス業、保険業に制限している。一方、年少労働者の法定労働時間は1週間に40時間から35時間に、そして延長勤務時間は6時間から5時間に制限される。
韓国政府が「週52時間勤務制」を実施した理由は、長時間労働を解消し、労働者のワークライフバランスの改善(夕方のある暮らし)を推進すると共に、新しい雇用創出を実現するためである。17年時点における韓国の年間労働時間は2024時間で、データが利用できるOECD加盟国の中で韓国より労働時間が長いのはメキシコ(2257時間)のみである。
一方、労働需給のミスマッチと雇用創出の不振で若者の雇用状況は改善されておらず、17年時点の若者(20~29歳)の失業率は9・8%に達している。これは平均失業率3・7%に対しておよそ2・6倍の高さである。韓国政府は労働時間を短縮することによって、その分新たな雇用が創出されると期待し、「週52時間勤務制」を思い切って実施した。
では、「週52時間勤務制」の実施による副作用はないだろうか。まず、考えられるのが労働時間の短縮による賃金総額の減少である。特に、製造業の場合は基本給が低く設定されており、残業により生活水準を維持する労働者が多かった。労働時間の短縮により、「夕方のある暮らし」をすることは望ましいものの、1カ月の残業時間が最大64時間も短縮されると生活に与える影響は少なくないだろう。
国会予算政策処が3月13日に発表した「延長勤労時間の制限が賃金及び雇用に及ぼす効果」では、「週52時間勤務制」が適用され、労働者の残業時間が減少すると、
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