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2018/11/02

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第37回 幼稚園の会計不正で揺れる韓国社会                                                      ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆「サムスンより怖い」幼稚園への改革が始まる◆

 韓国では10月10日~29日まで国政監査が行われた。その中で最も大きな話題となったのが、私立幼稚園を巡る会計不正事件である。

 共に民主党の朴用鎮議員は10月11日に、全国17カ所の市・道教育庁が2013年~17年に実施した監査結果を公表し、不正があった全国1878カ所の私立幼稚園の名前や5951件の不正内容を公開した。

 ソウル市だけをみると、公立幼稚園は、監査対象116カ所の中31カ所(26・7%)が摘発されたことに比べて、私立幼稚園は監査対象64カ所の中45カ所(70・3%)が摘発された。私立の割合が相対的に高いことが分かる。不正を起こした幼稚園の名前が公開されたのは今回が初めてのことである。

 不正を起こした私立幼稚園の園長らは、国から支給された助成金(韓国では支援金という言葉が使われている)を、個人用のブランドバックの購入代、自家用車の修理費、アパート管理費、病院費、さらに、飲み代や成人用品の購入費等で流用していた。また、家族を職員として採用し、1000万㌆あるいは2000万㌆の月給を支払うケースもあった。多くの幼稚園教諭の月給が最低賃金を少し上回る150万㌆前後であることを考慮すると常識離れの金額である。

 さらに取引先に実際より多い物品代を支払って、後から借名口座に返してもう形で国からの助成金を横領するケースも少なくなかった。

 韓国における私立幼稚園の数は、1980年代の全斗煥政権時代に急増した。全斗煥元大統領は幼児教育振興総合計画を樹立し、幼児教育振興法を制定・公表した。そして、幼稚園就学率を引き上げるために私立幼稚園を設立するための規制を緩和し、私立幼稚園を増やした。その結果、80年に861カ所だった私立幼稚園の数は87年には3233カ所と4倍近く急増した。

 私立幼稚園の増加は私立幼稚園の影響力を大きくする要因になった。17年現在の私立の数は4282カ所で施設を基準にした場合、全幼稚園(9029カ所で)の47・4%で国公立の割合52・6%より低いものの、園児数を基準にした私立学校の割合は75・2%(全園児数69万4631人、私立幼稚園の園児数52万2110人)で国公立の割合24・8%を大きく上回っている。その結果、私立幼稚園を中心に構成されている韓国幼稚園総連合会(以下、韓幼総)の地域での影響力は大きくなり、政治家も支持層を獲得・維持するために私立幼稚園の改革に積極的な立場を見せず、今まで私立幼稚園に対する改革がまともに実施されなかった。

 私立幼稚園の会計不正が増え始めたのは12年に無償保育政策が実施されてからだと考えられる。毎年2兆㌆を超える国の予算が私立幼稚園に支給されることにより、私立幼稚園の財政状況は以前より豊かになり、会計不正に手を染める幼稚園が増えるようになった。地域の教育庁からの監査も人手不足等を理由にまともに実施されず、監査が実施され、会計不正が摘発されても横領した金額を返却する程度の軽い処罰に終わるケースが多かった。

 私立幼稚園を巡る会計不正事件が社会問題に発展すると、与党・政府は、10月25日に幼稚園の会計不正に関する緊急会合を開き、不正防止のための総合対策を発表した。その主な内容は


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