ここから本文です

2018/04/20

<オピニオン>転換期の韓国経済 第98回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第98回

◆所得主導型成長に暗雲◆

 文在寅政権が発足して、もうすぐ1年を迎える。経済政策のなかで最も力を入れているのが、所得主導型成長の実現である。

 その出発点は、最低賃金の引上げ、公共部門を中心にした雇用創出、非正規から正規職への転換などを進める一方、生活費の負担(住宅、養育、交通など)軽減を図り、可処分所得を増やすことである。このため、財政資金は福祉・雇用分野に多く投入されている。

 17年に経済成長率が3・1%になった一方、青年層の失業率は2000年代以降で最も高くなり、文政権は厳しい現実を突きつけられた。

 失業率が上昇した要因には、雇用創出力の低下と求職者の大企業志向の強さ(背景に高い大学進学率、大企業と中小企業の格差など)のほかに、第二次「エコー世代」(ベビーブーマーの子供)の労働市場への参入がある。

 25~29歳の人口増加は21年まで続く見込みであり、何も対策を講じなければ、失業率の悪化が予想されるため、政府は18年度に3・9兆㌆規模の補正予算を編成し、青年雇用対策を実施していくことにした。

 まず、中小企業に支給する雇用奨励金の増額と条件緩和である。従来の政策は青年を3人新規雇用した場合に、1人分の賃金を支援(年間667万㌆)していく内容であったが、3人を雇用するのはかなり難しいので、今回従業員30人未満の企業は1人、100人未満の企業は2人を新規雇用すれば、年間900万㌆を支給することにした。

 さらに、中小企業に就職する青年(34歳以下)に対する支援である。これには、所得税の5年間免除(現行は3年間、70%減免)、住宅補助、産業団地内の中小企業に勤務する際の交通費支援などのほか、資産形成に対する支援が盛り込まれた。

 今後、これらの政策効果が期待されるが、所得主導型成長の実現は容易ではない。

 理由の一つは、最低賃金大幅引上げ(前年比16・4%増)による負の影響である。

 今年1~3月の産業別雇用者数をみると、卸・小売、宿泊・飲食、教育などで著しく減少した。この要因には、前年同期が増加していたことの反動、中国からの観光客減少(前年割れになったのは17年3月以降)もあろうが、昨年7月に18年の最低賃金が決定された後、事業主から人を減らさざるをえないという声が出ていたこと、卸・小売では17年9月から減少し始めていることなどを考えれば、最低賃金引上げが影響していることは間違いないであろう。

 もう一つの理由は、企業による対外直接投資の増加とそれによる雇用流出である。

 韓国の対外直接投資額は、2000年代に入って急増した後、リーマンショックを契機に減少したが、12年以降再び増加傾向にある。

 近年の特徴は、中国向け直接投資額が総じて減少傾向にある一方、


つづきは本紙へ


バックナンバー

<オピニオン>