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2018/11/23

<オピニオン>韓国経済講座 第211回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 筆頭理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県横浜生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学教授。アジア経済文化研究所筆頭理事・首席研究員、育秀国際語学院学院長。

  • 韓国経済講座 第211回

◆所得主導成長論と包容成長論◆

 去る9月6日、「包容国家戦略会議」で、政府の社会政策ビジョンと戦略を公開し、これまでの所得主導成長政策に加えて社会政策としての包容成長政策を打ち出した。これまでの文在寅政府の所得主導成長の経済運用3大軸は、所得主導成長・革新成長・公正経済である。需要側面としての所得主導成長は、低所得による需要低迷を脱するために最低賃金引き上げを軸とする賃金増加政策である。供給側面からのアプローチである革新成長は、人工知能(AI)、モノのインターネットなどの新技術を製造業やサービス業、バイオ・医療・環境分野に応用して融合する技術型創業企業を育成するものである。そして、公正経済は、大企業の集中力を解消し、中小企業や自営業者、労働者に恩恵を還元できるようにするものだ。

 今回の打ち出された包容成長は、まだその内容に関しては明示されてないものの、「会議」では高齢者のための基礎年金と障害者のための障害者年金額を引き上げ、児童手当てを新たに支給など社会的弱者への対策が示された。所得主導成長策と包容成長策を合わせた「包容国家」の関係は上図のように示されている。

 ところで、所得主導成長も包容成長もその背景には国際機関の研究がある。いわば種本だ。所得主導成長を主張した研究は、ILO(国際労働機関)で積極的に行われ、例えばILOが委託した「経済成長に関する新しい視点」のプロジェクトの最終報告書である「所得主導成長」(2013年)や「賃金主導成長・概念、理論、政策」マル・ラヴォア教授(カナダ・オタワ大)とエンゲルベルト・シュトックハマー教授(英キングストン大)教授の共著をはじめとして所得主導成長に関する研究がある。これらの主な主張は、賃金所得を上げることが需要を創出することにつながり、それはいずれ労働生産性をも高めることになり、需要サイドからの成長戦略となる。したがって、国内需要は賃金主導であると結論付けている。この主張が文在寅政権の所得主導成長の理論的背景である。殆どの世帯にとって賃金は主な収入源であり、したがって、より高い賃金はより高い消費支出に直接的に繋がる。労働者の所得が増えて労働条件が改善されれば、需要だけが増加するのではなくいずれ生産性向上にも繋がると言う。

 さらに言えば、


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