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2019/01/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第107回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第107回

◆今年の韓国経済をみる3つの視点◆

 世界経済の減速が懸念される状況下、今年の韓国経済はどのような展開をみせるのか。以下では、それを考える上で重要と思われる3つの視点について触れていきたい。

 第1は、文在寅政権の経済政策のゆくえである。同政権の経済政策は所得主導成長、革新成長(イノベーションを通じた成長)、公正な経済の3本柱から成る。これまで重点は所得主導成長の実現に置かれ、関連した政策が相次いで実施されてきたが、その成果は乏しく、むしろ副作用が顕在化した。さらに、昨年の4~6月期以降投資の減速傾向が顕著になったほか、ここにきて米中貿易戦争の影響や半導体需要の鈍化などにより、輸出の先行きが不透明になったため、政策の見直しが迫られるようになった。

 12月10日、新経済副首相・企画財政部長官になった洪楠基氏は、基本的にこれまでの政策を続けると表明する一方、最低賃金の引き上げや労働時間短縮のペースを調整していく必要性を指摘した。同月17日に発表された「2019年の経済政策」では、政策の重点(掲載順位)がシフトしていることがうかがえる。所得主導成長と公正な経済を含む包摂的成長が3番目に置かれ、経済の強化がトップに置かれた(上表)。そのなかに投資促進、起業家精神奨励、消費・ツーリズム促進、輸出促進などが盛り込まれ、景気対策色の濃い内容となっている。他方、革新成長は4番目の未来の準備に入れられた(スタートアップは1番目)。

 このように、所得主導成長は政権発足当時よりもトーンダウンしたとはいえ、引き続き続けられることになる。実際、文在寅大統領は年頭演説で、その旨を強調した。

 そうなると、今後の焦点の一つは、所得主導成長に関連した政策の速度調整である。副作用を是正するためには20年の最低賃金の引き上げ幅を物価上昇分程度にとどめる必要があるが、それができるのかどうか。

 もう一つの焦点は、革新成長が「うたい文句」で終わるのか、それとも実現に向けて動き出すのかである。自動運転の走行実験、カーシェアリングサービス、フィンテック事業、モバイルヘルスケア事業などは、国内の規制によって前進できていないのが現状である。今後革新成長政策が成果を上げるためにも、大胆な規制緩和や人材の流動性を高める労働市場改革などが必要である。それができるのか、問われることになる。

 第2は、中国経済の影響度合いである。影響には、輸出減速と国産化進展の二つがある。中国では米中貿易戦争の影響による輸出の減速が懸念されている。韓国の対中輸出の多くは中間財であるため、


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