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2000/07/21

<在日社会>新しい感覚持つ在日作家が誕生 第123回直木賞に金城一紀氏の『GO』

 第123回直木賞に在日2世の作家、金城一紀さんの「GO」が決定した。在日韓国人高校生と日本人の女の子の恋愛物語で、それを通して差別や民族の問題も描かれる。重くなりがちなテーマを、明るく生き生きとした文章で表現したことが高く評価された。

 「GO」で直木賞を受賞した金城さんは、東京都北区在住の在日2世。子どものころから小説が好きで、作家を志したのは大学1年生の時だ。大学を卒業してから本格的に作家を志し、作品を書きためてきた。

 今回、単行本としてデビュー作での受賞に、「とても驚いた。舟戸与一さんの作品の愛読者だが、その船戸さんと同時受賞となったこともうれしい」と、率直に喜びを語った。

 「既存の在日文学は重く暗い作品ばかりで、読んで楽しくなく、自分を解放してくれることもなかった。だから僕が作家になって、僕らの世代のためのエンタテインメント小説を書こうと思った。在日の若者にとって、ある意味では、国籍や民族よりも大切なのが恋愛だ」と語る受賞作は、「書くことの喜びに踊った、ユーモアあふれる生きのよい文章」(井上ひさし選考委員)と高い評価を受けた。

 一方、自らを「コリアンジャパニーズ」と名乗り、民族や国籍、祖国などの枠に縛られることに強い抵抗を感じるとして、記者会見では韓国名を名乗ることを拒否した。また受賞後、韓日のマスコミから取材の申し込みが殺到しているが、それについても固辞している。

 「韓国人でもない日本人でもない根無し草の力を、作品に示したい。在日というキーワードには抵抗があるが、今回の受賞をきっかけに、既存の在日文学の枠を乗り越え、自由な感じで書きたい」と述べた後、「将来は在日文学の”在日”を消して、日本文学への道を引きたい」と強調した。

 在日韓国人3世の男子高校生「僕」の日本人の女の子との恋愛を軸に、元プロボクサーで朝鮮籍から韓国籍に変更した父との葛藤(かっとう)、民族学校から日本の高校へ転校するときに同胞から「売国奴」とののしられた話、日本社会での差別などを経験しながら、「僕」が成長する姿を描く。

 かねしろ・かずき 1968年、埼玉県生まれ。慶応大学卒。98年「レヴォリューションNo.3」で小説現代新人賞。