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2000/09/29

<在日社会>国際社会に暗い参政権反対論

 国際社会に暗い参政権反対論 近藤敦・九州産業大学助教授

 公明党・保守党が提案した「永住外国人に対する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権等の付与に関する法律案」が臨時国会の重要案件の1つとなっている。
 しかし、自民党の反対派議員64人からなる「外国人参政権の慎重な取り扱いを要求する国会議員の会」が設立され、また自民党の野中幹事長から「特別永住者」に対象を限定する修正案を検討する与党3党のプロジェクトチームの設置が提案されている。

 一部の反対派の国会議員が永住外国人の地方選挙権は、憲法違反であるとの主張をしているので、その点をまず検討し、ついで、特別永住者に限定する案について考えてみることにしよう。
 
 憲法15条が「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」としていることから、選挙権を国民「のみ」に限定する規定と解することは、「固有の」という文言解釈において誤りである。この場合の「国民固有の」とは、「国民から奪ってはならない」という意味であり、国民から奪わなければ永住者等に地方選挙権を付与しても15条に反するわけではない。国民主権原理を憲法に定めるスウェーデン、アイルランド、フランス、ドイツ、スペインなどでは、今日、地方参政権を一定の外国人に付与することと、国民主権原理とは両立している。
 
 この点、主権の制限・委譲による説明が可能であり、日本でも「法律の範囲内で条例を制定する」憲法94条、および地方自治の本旨を定める92条の住民自治との体系解釈から、永住者の地方選挙権が憲法に違反しない旨を最高裁は判示し、立法による解決に委ねたのである。地方選挙権者を「国民」と定めていた条文を「EU市民」も含む形に憲法改正したドイツと違い、日本の憲法は「住民」と初めから定めている。

 ついで、選挙権の普遍主義原理および憲法の国際協調主義から、特定の国の特定の経緯での出身者に限る法案修正は、立法技術上好ましくないし、外交政策上も得策ではない。日本の民主主義の質を向上させ、人の国際移動が盛んな時代での共生社会を進めるために、永住外国人の地方選挙権法案は重要な意味をもっている。世論調査において国民の多くが支持しており、国会議員のアンケート調査からもその多くが支持している永住外国人の地方選挙権を、自民党の64人の議員(全国会議員の10%に満たない)の反対により廃案にすることがあるとすれば、日本の民主主義の奇異な一面を国内外に示す問題を生じる。

 また、反対派は一定の外国人に地方参政権を認めているヨーロッパではなく、アメリカを例に出す。しかし、1992年からアメリカの一部の自治体では外国人の地方参政権は採用されている。また、日本がアメリカのような国であれば、大多数の日本生まれの永住者は、生地主義により日本国籍を取得し、相手国が認めれば二重国籍となる。外国人の地方参政権は、血統主義を基本とするヨーロッパ大陸諸国で必要とされ、日本でもその重要性が認識されてきた問題である。

 人の国際移動が盛んな時代にあって、長期にその国に居住する人の政治参加を排除することによって民主主義を硬直させない仕組みを、アメリカもヨーロッパもともに追及している。アメリカのような生地主義への転換を提案するのでないかぎり、ヨーロッパ型の外国人地方参政権により、日本の民主主義を現代的なスタンダードに合わせることが望まれる。