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2000/07/28

<在日社会>業界ナンバーワンのCMディレクター、具秀然さん 「だって8時間なんだもん」 ヒット連発

 CMディレクターの具秀然さんは、下関出身の在日2世。ソニーハンディカムの「だって8時間だもん」、エステサロンTBCの「脱いでもすごいんです」などのテレビCMで有名な、売れっ子ディレクターだ。ヒットCM作りの秘訣は人間の本音に迫ること、そして在日に生まれたことが人間の本質を知るきっかけになったと、具さんは強調する。

 具さんのCM作りの秘けつは、商品のイメージと社会的イメージの二つを、常にCMの中に盛り込むことだ。「社会の本質に迫るメッセージ性がないと、見る人の心に響かない」と具さんは強調する。

 最近請け負った大手GパンメーカーのCMで飯島直子さんを使って「結局外見」と話させている。人間は人を外見で判断してはいけないとよくいうが、そんなことはありえない。人は外見で判断するというメッセージと、外見では人はわからないとの二つのメッセージを盛り込んだ。流行語となった「脱いでもすごいんです」のCMも、同じ意図だ。

 ソニーハンディカムのCMは、人気がありすぎて、学校関係者から「運動会に参加した家族が、子どもたちへの拍手を忘れてビデオ撮影ばかりしている」とのクレームも来たほどだ。

 「マーケティングは知覚の闘い。なくても生活できる品物を、それがあることで楽しめる人がいるということを認識するところから始まる。相手の心に響かせる一言を、どう作り上げるかが勝負」

 1本のCM製作に企画2カ月、撮影と編集にやはり2カ月をかける。年間に製作するのは16|18本。年間24本が平均の業界では少ない製作本数だ。

 「ギャラは言い値では日本一高い。その分、クライアントに満足してもらう作品を仕上げている自信がある」

 具さんは、山口県下関市出身の在日2世。カトリック系の牧師の家庭に生まれる。一枚のポスターで人の価値観が変わる事を知り、デザイン学校に入学。卒業後、CM業界に飛び込んだ。

 「思いつきでなく、理論的に積み重ねて、一つ一つていねいにコンテを書いていく。在日という少数者に生まれたおかげで、普通の日本人よりも人間の本質、本音、長所や短所をすばやく発見することが出来たと思う。それをCM作りに生かしている。米国でも黒人のすばらしいCMディレクターが活躍しているが、それも白人社会には見えにくい表現を提供しているからだと思う」。

 在日は、たとえ帰化してもなくならない。在日はネガティブでもマイナスでもなく、もともとポジティブな存在だと考えることが大切だと具さんは強調する。
 「不条理や理不尽が見えにくくなった社会だが、それにごまかされずに本質を見つめよう。問題を抱えながら成長した人に、問題を抱えなかった人はかなわない。不都合を楽しく経験しよう。ポジティブ・シンキングが大切だ」

 具さんはCMの製作以外に現在、小説「コリアン・コネクション」(仮題)を執筆中。在日の高校生を主人公にした自伝的小説で、年内に角川春樹事務所から出版予定だ。メディアを所有し、電波で新しい価値観を示す夢も持っている。
 妻は日本人で名字を具に変えている。小学生の子ども二人は二重国籍。韓国名を使っている。

<略歴>
 グ・スヨン 1961年、山口県下関市生まれ。26歳でディレクターデビュー。94年にGOOTV COMPANY ltd.設立。