在日の銀行化構想が混迷をきわめている。これまで「韓信銀行」、「韓日銀行」に加え「民団銀行」構想も飛び出しては消えた。だが、計画は打ち上げられても一向に進展せず、経営破たんした在日信組の預金流失が続く中、大阪商銀は在日金融機関への事業譲渡を断念した。韓国政府が3月末までの時限を区切って単一化案の提示を求めたが、積極的な回答を示せなかった。その結果、韓国政府からの資本金支援は事実上困難になった。一体、どうなっているのか、検証してみた。
厳しさ増す現状
そもそも銀行構想が持ち上がったのは、在日信組の経営破たんが相次ぎ、これの受け皿が必要となったからだ。特に昨年末に最大手の関西興銀と東京商銀が経営破たんに陥り、受け皿つくりは緊急の課題になった。
在日韓国信用組合協会(韓信協)加盟28組合中、9組合が破綻しており、預金流失が進んでいる。関西興銀はすでに4000億円以上が引き出されており、東京商銀の預金残高も半分近くに激減していている。
また、大阪商銀は結局、日本の京都シティ信組に5月に譲渡されることが決まった。支店を大幅に減らし、人員も100人に大リストラしての身売りだ。大阪商銀の場合、管財人が派遣されて丸2年になり、譲渡先が決まらなければ6月4日付で清算される運命あったからやむをえない選択だったかもしれない。
旧経営陣への責任追及も厳しくなりそうだ。関西興銀の管財人は3月12日に報告書をまとめ「広く中小規模事業者への相互扶助の範囲を逸脱して、特定顧客への大口信用集中した」として、内部調査事務局を設置し、旧経営陣の民事、刑事上の経営責任を追及する方針を明らかにした。東京商銀の場合も、同様の声があがっている。
「韓信協銀行」構想
今月1月30日、加盟18組合の代表が参加して合併に調印した。合併と同時に銀行に転換して破綻組合の受け皿になろうというもので、民団、韓商の支持もとりつけた。
3月中旬に予備審査申請し、4月に本申請して許可を得て7月16日に銀行として再出発するというシナリオだった。だが、進展しなかった。関西興銀や東京商銀など大型信組の事業譲渡を受けるに足る資本力に不足しており、この点金融庁も難色を示した。
このため、韓国政府に対して資本金の支援を要請したが、在日の単一案提示、二次破綻の防止策などの条件をつけられ、結局これに十分にこたえることができなかった。
仕方なく、見切り発車の形で予備審査を申請した。受理はされたが通るかどうかは不透明だ。実は、李会長らは韓国政府の支援を取り付けられない段階で一度は銀行化を断念した。だが、ここのままでは大変なことになると最終判断、最後の賭けに出たようだ。関係者の間でも、「許可がおりるかどうかは5分5分」と楽観はしていない。
合併加盟信組の自己資本比率は4%以上とされているが、実際にどの水準なのかも、成否を占う判断材料になる。
5月に各信組で総代会が開かれるが、金融庁では「今回は検査結果を反映した数字を出さざるを得ないだけに、実態が分かるようになるだろう」と説明している。
「韓日銀行」構想
東京商銀の顧客らが中心になって市民運動として推進しているもので、「不良債権の全くない新しい銀行」がキャッチフレーズ。
だが、民団や韓信協から強い反発を受けており、まだ予備審査申請をできない状態。特に、基盤とする大阪商銀の譲渡先が決まったことが大きな痛手となっている。
現在、2万人を目標に署名運動を展開、すでに1万2000人分は集まったとしているが、韓信協側の動きをみながら次なる手を打とうと考えているようだ。
「民団銀行」構想
昨年末、民団、韓商、韓信協の3者が会合をもち、三位一体となって新銀行実現に取り組むことを発表した。
だが、すでにこの段階で、民団執行部内に「本当に韓信協銀行で大丈夫なのか。二次破綻が起こっては民団の責任問題にもなる」という声があり、民団が主導する銀行構想が出て来た。
民団は銀行をつくる団体ではないが、その公信力と大衆的な力を呼び覚ますことに活用できるという判断だ。実際の銀行実務は既存の信組関係者らが担うことになる。結局、この構想は韓信協の強い反発で立ち消えになったが、再浮上の可能性もある。
民団の対応
3月14日の民団中央委員会では、この銀行化問題が大きな論議となった。金宰淑・中央団長は、「予備審査申請が認められれば前団員への一株運動を展開する」と言明した。条件なしの全面支援は打ち出せなかった。
当面、韓信協側の予備審査申請の結果がどうなるのかをみて、民団としての本格的な対応をすることになる。民団がはっきいりした方向性を示すべきだという声が強くあり、中央委でも3月末か4月初めには結論を出したいとしていたが。いつまでも先送りはできない情勢だ。
大使館の対応
崔相龍・駐日韓国大使は2月13日、韓信協、民団中央本部、在日韓商の代表を招き、韓国政府の指針を伝えた。3月末までに在日の単一案を提示し、条件にかなう案と認められるならば韓国政府の出資を検討すると約束した。
在日間の対立を防止し、1本化して日本の金融当局からの許可を得るよう誘導すうものだった。だが、韓信協の銀行構想を在日の創意とは判断しなかったようだが、金融庁など日本の当局とのパイプなどを考えると、各種情報を相当早くからつかんでおり、昨年の関西興銀の破綻を含め、対応の遅れを指摘する声もある。
金融庁の立場
金融庁は、信用秩序維持のため、破綻組合の受け皿が必要であり、在日の銀行化構想に一定の理解をしている。だが、資本金、経営能力、収益の見通しなど銀行化の要件を整えているかどうかを見極めなければならない。当然、第二次破綻となれば行政の責任が問われるだけに、審査は厳しくならざるを得ない。
昨年の検査などを通じて在日信組の自己資本比率がどの程度なのかを唯一知りうる立場にある。だが、「二次破綻は避けなければならないが、だからといって蛇口を必要以上閉めることも難しい。ともかく中身が問題だ」という指摘もある。