「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書は、韓国併合やアジア諸国に与えた被害などで修正を行ったとはいうものの、日本の過去の侵略行為に対する記述が曖昧になったことは否めず、韓国、中国などから大きな反発を受けることになり、今後の韓日関係への悪影響が心配されている。また在日団体や、日本の学校に子どもたちを通わせる父母・教育者の間にも不安が広がっている。
つくる会の中学歴史教科書は、記述に一方的な誤りがあったこと、検定段階で韓国、中国の強い抗議を受けたことなどがあり、文部科学省から3段階に至るチェックを受け、他の7社の13―41カ所と比較してはるかに多い137カ所の検定意見を受けた。近隣諸国への配慮もなされたというが、検定結果は納得できるものとは言い難い。
韓国に関する記述を見ると、江華島事件と韓日修好条約、1919年の3・1独立運動、強制連行・労働などで強制的な行為があったことは記述されるようになった。
しかし、もっとも大きな問題となった韓国併合については、「武力を背景に併合を断行した。日本語教育など同化政策が進められたので、朝鮮の人々は日本への反感を強めた」との記述が加えられたものの、「日本は植民地にした朝鮮で鉄道・灌漑(かんがい)の施設を整えるなどの開発を行い」と、日本が朝鮮の発展に貢献したかのような一節を入れるなど、日本優位論が根底にある。
日本軍による従軍慰安婦について一行も触れられていないのも問題だ。
文部科学省は近隣諸国に配慮したと言っているが、国際社会では到底認められない教科書と言わざるを得ない。今回の教科書検定を見ると、これまでの7社の教科書のうち4社が従軍慰安婦の記述を完全削除した。「侵略」の表現も6社から削除されるなど、全体的に加害事実が減っている。
韓国では「日本の一部教科書が自国中心的に過去の過ちを合理化し、美化する内容を盛り込んだ歴史教育を行おうしている」として、マスコミや市民団体などから抗議の声が続出している。
戦後補償問題に取り組む韓国の女性団体・挺身隊問題対策協議会は、元慰安婦のハルモニ(おばあさん)たちとともに、ソウル市内で抗議デモを行った。ハルモニたちは、「私たちは存在しないのか」と怒りの声をあげた。
在日韓国民団(金宰淑・中央団長)は、4日に鄭夢周・文教局長名で「自国中心主義の中学歴史教科書に対するコメント」を出し、危機感を表明した。
東京・荒川で在日の子どもたちに民族文化を教える「コブッソン(亀甲船)子ども会」主宰の呉ユンビョンさんは、「学校現場での日の丸・君が代の強制といい、今度の検定通過といい、日本の保守化に強い危機意識を感じる。在日同胞は今度の事態に、もっと怒りを示す必要がある」と話す。
合格判定を受けた出版社は、5月中旬までに教科書見本を作成、文部科学省に納本した後、7月に全国で教科書展示会を開催。地域の教育委員会や学校長が採用教科書を決定することになる。
「つくる会」では今後、10%の市場シェアを目指すといい、日本の市民団体や教育関係者などは不採択の運動を展開する予定だ。