「殺身成仁」を体現した李秀賢さん
韓日交流時代に尊い犠牲
駅のホームから落ちた男性を助けようとして自らも犠牲になった韓国人留学生・李秀賢さんの死は、図らずも韓国人留学生の存在と韓日関係、人間の善意と勇気を世間に知らしめた。
将来は韓日貿易希望
高麗大学貿易学科に在籍していた李秀賢さんは日本に興味を持ち、日本語と貿易実務の勉強のために、昨年日本に留学していた。
李さんが通っていた日本語学校「赤門会」は、学生の90%が韓国人留学生だ。また李さんのアルバイト先の新大久保界隈は、韓国料理店、食料品店などが立ち並ぶコリアタウンのあるところで、新大久保駅前は大勢の韓国人が行き交っていた。
「殺身成仁の崇高な犠牲精神は、韓日両国民の心の中に永遠に記憶されるでしょう」と金大中大統領は、弔文のなかで表現した。
●「殺身成仁」の精神
「殺身成仁の崇高な犠牲精神は、韓日両国民の心の中に永遠に記憶されるでしょう」と金大中大統領は、弔文の中で表現した。「殺身成仁」は、「自分の命を犠牲にしても仁を成す」の意で、論語から来ているという。森首相も「勇気ある若者だ。日本の若者の模範になる行動で敬意を表したい」と弔問時に述べた。転落した人を救うため、反射的に飛び込んだ李さんと関根さん、あまりにも崇高な精神だったが、その遺志を無駄にしない生き方をしたいとの声が各地から寄せられている。
◆経過◆
1月26日午後7時ごろ、東京都新宿区のJR新大久保駅で、酔って線路に転落した男性を助けようと、韓国人留学生の李秀賢さん(26)と、神奈川県横浜市在住のカメラマン関根史郎さん(47)の二人が線路に降りたところに列車が進入、3人とも命を落とした。
李さんは高麗大学貿易学科の学生。4年生で休学し、日本語を学ぶために昨年1月来日、東京・荒川区にある「赤門会」日本語学校に留学していた。また新大久保のインターネットカフェでアルバイトをしており、帰宅途中に事故に遭遇した。李さんは将来は貿易会社で韓日貿易の仕事につくことを希望、また結婚を約束していた恋人もいた。
29日に同日本語学校で行われた告別式には、森善朗首相、河野洋平外相、田中真紀子(確認)・衆議院議員など日本政府高官、国会議員、各地の韓国人留学生、地元の日本人など1000人あまりの弔問客が訪れた。金大中大統領からは「故人のことは、韓日友好関係の発展とともに永遠に記憶されるだろう」との弔電が寄せられた。また金宰淑・在日韓国民団団長も弔文を発表した。
李さんの父、李盛大さんと母の辛閏賛さんは告別式に参列した後、李さんが亡くなった新大久保駅を訪れて花を捧げ、30日に釜山に戻った。盛大さんは自分の父(李さんの祖父)が日本の植民地時代、強制連行されて炭坑で働かされたこと、それを探しに来た祖父(李さんの曾祖父)が日本で亡くなったこと、自分が日本で生まれたことなど、日本との「因縁」を明かした。
李さんが通っていた高麗大学では、名誉卒業証書を授与するとともに、追悼碑を建てることも決定した。韓国政府は国民勲章を授与するとともに、遺族に一時金1億2840万¥ウオン¥(約1200万円)を支給した。
日本の警視庁は、二人が自らの危険をかえりみずに人命救助にあたって事故にあったと認定し、災害給付金を交付することを決定した。赤門会では学校に寄せられた追悼文をまとめて文集を製作した。日本の新聞社では事件を大きく報道するとともに、李さんと関根さんへの見舞金口座を設けた。
<声>
明るい人だった
徐成墉さん(24、男)
半年間、同じクラスで日本語を勉強していた。まじめで明るい性格の人で、友人の評判も良かった。学んだ日本語を生かして、サッカーの2002年ワールドカップでボランティアをやりたいと言っていた。日本の大学院に進むかどうか、考えていた矢先の事故だった。亡くなったなんていまも信じられない。
とにかく残念
金賢正さん(26、女)
李さんとは違う日本語学校で面識はないが、友人たちと弔問に来た。事件を聞いたときはびっくりした。韓国人は情があつい民族。反射的に助けに行ったのだろう。本人はやりたいことが沢山あったはずで、すばらしいことをしたとは思うが、外国でこういう形で亡くなるとは残念だ。
■ホームページ■
スポーツ青年でパソコンも得意だった李さんは、自作のホームページを公開、マウンテンバイクでの登山のようすや恋人の紹介などをしていた。同ホームページには、事件後数日で15万件を超える追悼文が寄せられている。「君の死を決して忘れない」「崇高な精神に涙する」「生きていてほしかった」「私も負けないで立派な生き方をする」など、李さんの同級生をはじめ韓国内外、そして日本や米国など海外からも多数寄せられている。ホームページへの書き込みは、現在も続けられている。アドレスは(blue.nownuri.net/~gibson71)。
●留学生の増加
日本の外務省・統計課によると、韓国人留学生は1万3194人(99年)いる。留学生総数6万4646人(99年)の20・4%を占める数字だ。学生数は安定しており、この5年間、毎年1万3000人ほどが留学している。
98年に韓日両政府で韓日パートナーシップが確認され、青少年交流の増大がうたわれた。日本の大衆文化開放で日本への関心も急速に高まっており、韓国人留学生は今後さらに増大すると見られている。日本語ブームで、ソウルの日本語学校では、日本語講師が追いつかない現象も生じているという。サッカーの2002年ワールドカップ韓日共催大会が迫っており、韓日間にワーキングホリデーが導入されたこともあって、日本を訪れる若者は、さらに増加すると予想されている。