問題作が多く話題を集めた「第15回東京国際映画祭」が閉幕した。韓国映画は新作12本が一挙公開、また在日映画人製作の『夜を賭けて』も上映された。しかし残念ながら、韓国映画の受賞作はなかった。映画祭での核であるコンペへの出品作がなかったのも気になる点だ。
東京国際映画祭「アジアの風」部門(全12作品)に出品されたのは、『THREE』(金ジウン監督)、『復讐者に哀れみを』(朴チャヌク監督)、『結婚は狂気の沙汰』(ユ・ハ監督)、『密愛』(辺ヨンジュ監督)の4本。
『結婚は狂気の沙汰』『密愛』とも、夫との関係に悩む妻の葛藤と不倫を題材にした映画である。中でも『密愛』は、従軍慰安婦をテーマにしたドキュメンタリーを撮り続けてきた辺ヨンジュ監督が初めて劇映画に挑み、映画『シュリ』で日本にもファンが多い女優の金ユンジンが主演をするとあって、注目を集めていた。
辺監督は、「(不倫という)韓国社会で賛同されにくいテーマをあえて選んだ。評価を楽しみにしている」と語り、金ユンジンは「ヌードシーンがあるので、8カ月間悩んだ。主人公の心の動きをどう捉えるか、恋人や友人と見て話し合ってくれればうれしい」と話した。シュリ以後、作品に恵まれなかった金ユンジンだが、同作では人生に悩む等身大の女性を見事に演じきった。
「アジアの風」部門に加え、「トーキョー フィルム・メーカーズ・コンベンション」部門の15作品が、アジアの優秀作品に送られるアジア映画賞を狙った。
受賞作はスリランカの『この翼で飛べたら』(アソカ・ハンダガマ監督)だったが、同作品と激しく賞を争ったのが、『夜を賭けて』だ。在日2世の作家、梁石日氏原作を映画化したもので、戦後の大阪で”アパッチ”と呼ばれたスクラップの密売を行った在日の人々を描いている。受賞は逃したものの、在日の新人監督、金守珍(劇団・新宿梁山泊主宰)の力量を発揮された作品だ。
コリアン・シネマ・ウィークで紹介された『酔画仙』など6作品、やはり協賛企画の東京国際ファンタスティック映画祭に出品された『火山高』など2作品の8作品は、昨今の韓国映画ブームを反映して大勢の観客が詰め掛けた。中でも朝鮮時代末期の天才画家、張承業を描いた『酔画仙』は、カンヌ映画祭で監督賞を受賞しただけあって、「映像美にあふれた高レベルの作品」と好評だった。
同時代に詳しい文筆家の崔碩義さんは、「梅花の絵を世話になった女性にあげる話は実際にあった話。絵は長らく行方不明になっていたが、現在は発見されて博物館に保管されている。史実をよく調べた作品だ」と評価する。
しかし作品の出来不出来が激しく、うかうかしていると中アジアや中南米映画に追い抜かされると韓国映画ファンの心配の声もあった。例えば、テーマが不鮮明だったり、リアリティーにかけるとされる映画もあった。
通訳・翻訳業を営む尹春江さんは、「インターネットを利用した若者の恋愛や不倫がテーマの映画など、韓国社会が成熟し、そういう題材しかない時代になったといえるのかもしれない。20代の新人監督にチャンスは与えられるが、失敗したら2度目はない。韓国映画もバブルが終わって作品の質を求める時代に入った。『夜を賭けて』が賞を争ったのは、在日社会にとってもうれしいこと」と話す。